FC2ブログ

Entries

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
この記事に対してトラックバックを送信する(FC2ブログユーザー)
http://girltf.blog22.fc2.com/tb.php/7-7ec35edb

-件のトラックバック

-件のコメント

[C48]

もう、このサイトの管理をされていないかもしれませんが、感想を書かせてください

入れ替わった後の紅葉の葛藤、そして、最後のキスに至るまでの変化が素晴らしく書かれているなぁ、と思いました

素晴らしい小説をありがとうございました
  • 2011-11-28
  • torainu
  • URL
  • 編集

[C49] ご感想ありがとうございます

torainuさま、コメントありがとうございます。そして気づくのが遅れて申し訳ございません。
入れ替わり後の葛藤や戸惑いと、それでも少しずつ順応していくことによる変化とが好きなもので、そこを評価していただけたのはうれしい限りです。
きちんと管理できているとはとても言えない状態なのは心苦しいですが……。

コメントの投稿

投稿フォーム
投稿した内容は管理者にだけ閲覧出来ます

受容のかたち

アダルトTSF支援所掲示板で書き進め、スレッドが落ちた後に支援図書館へ投下しました。

------------------------------
------------------------------


 ドアを開けると、俊之さんはブラジャーを着けている最中だった。
「いやっ!! 入って来ないでくださいっっ!!!」
「あ、ご、ごめんなさい」
 悲鳴のような声を上げられて、わたしは咄嗟に廊下へ戻る。
「……もういいです」
 許可をいただいて改めて部屋に入ると、俊之さんは顔を真っ赤にして泣きそうな顔でわたしを睨んでくる。
 それはもちろん、わたしが普通の男性で俊之さんが普通の女子なら、今の行為は咎められてもしかたない。
 でも……俊之さんの身体は、本来はわたしのものなのに。
 本当はわたしが若月紅葉で、俊之さんは男性なのに。


 この屋敷で暮らしていたわたしと、上京して近所のアパートに引っ越してきたばかりの星野俊之さんが、道でぶつかった拍子に入れ替わってしまったのは、二ヶ月前の春休みのこと。俊之さんは高校を卒業したての浪人生、わたしは四月から高校三年生になるところだった。
 わたしたちはとりあえず俊之さんのアパートで善後策を打ち合わせ、道で転んだ『わたし』を『俊之』が手当てしたというシナリオを演じて、『俊之』が若月家に一人娘の恩人として受け入れられるようにした。それによって、『俊之』とお屋敷の箱入り娘である『紅葉』との間に接点を作ることができた。
 と言っても、浪人生の『俊之』が頻繁に屋敷に出向けるものでもないし、お嬢様学校に通う『紅葉』が一人暮らしの男性のアパートへ気軽に行けるわけもない。ちょっとした情報交換や相談は携帯電話で済ませ、実際に逢えるのは『紅葉』が何か口実を作って『俊之』を招いてくれる時だけ。
 今日は二週間ぶり、入れ替わって以来三度目の再会だった。


「あ、あの……さっきはごめんなさい。ノックくらいしなきゃいけなかったですよね」
 わたしが頭を下げると、俊之さんは困ったような顔で笑った。
「う、ううん、こっちこそごめんね、変な声出しちゃって」

 俊之さんが淹れてくれた紅茶を飲む。
「おいしい。俊之さん、紅茶淹れるの上手になりましたね」
 本当においしかったので、お世辞抜きにそんな言葉が口をついて出る。『紅葉』の顔の俊之さんは、恥じらうように顔を伏せて、それでも満足そうな笑みを浮かべた。
「いつまでも紅葉さんの評判落とすわけにもいかないからね。最近はきちんと本読んで勉強して、何度か練習もしたんだ」
「わたしのことを気遣ってくれたんですね。うれしい……」
 でも、そのせいで余分な手間を取らせてしまったんじゃないだろうか。
「あの、お勉強のほうは大丈夫ですか?」
 大学受験に紅茶の淹れ方は関係ない。
「うん!」
 元気のいい答えが返ってきた。
「俺、古文と物理が苦手だったんだけど、紅葉さんの学校の先生の教え方が上手でさ。それで、苦手が克服できる見込みがついてきたら、他の科目もまた伸び始めて……」
 言いながら、中間テストの結果を見せてくれる。携帯で個々の科目の点数は聞いていたけれど、総合では去年のわたしよりかなり順位が上がっていた。
 と、弾んでいた俊之さんの表情が気遣わしげなものに変わっていく。
「ところで……紅葉さんのほうは勉強大丈夫なの? 携帯じゃ何も言ってないから問題ないのかなって思って聞かなかったけど……」
「ええ」
 わたしも自信満々に肯いた。
「難しいところもありますけど、家で俊之さんの去年の教科書読んで自習したりしてますから。わたし、ああいう授業が性に合うみたいです」
 ついこの前の模試の結果を見せる。わたしと俊之さんの志望校はたまたま同じなのだが、B判定は悪くないだろう。
「わあ、すごい……」
 口元で両手を合わせて驚きを示す俊之さん。女の子らしいそんな仕草が妙に板についている。
「……少し話は変わりますけど、俊之さん、学校の雰囲気は大丈夫ですか? わたしは予備校の隅っこで静かにしてますからあまり困らないですけど、うちの高校は騒がしいですから……」
「う、うん。最初は戸惑ったけど……でも、今はかなり慣れたし、紅葉さんに教わったお友達とか、新しく仲良くなれた人とかいるから、けっこう楽しいよ」
「そ、そうなんですか!」
 入れ替わった最初の頃は、当然だけどとても男っぽかった俊之さんである。友人関係はむしろ狭まるくらいになるだろうと覚悟していたのに。
 紅茶のことも勉強のこともそうだけど、慣れない環境で慣れない姿ですごく努力しているんだろうなと思う。
「うん。……それで、今まで言いそびれちゃってたことがあるんだけど……」
「なんですか?」
「その、今言った新しい友達に誘われて、演劇部に入ることになって……」
「は、はい」
 電話やメールの短いやり取りではわからなかった色々なことが明らかになる。
 毎日の生活は突然の判断が必要な一つ一つの行動がいっぱいで、互いの了解を得てからなんてわけにはいかない。だから帰宅部だった『わたし』が部活を始めたことを咎める気なんてないけれど……事後承諾でいいから相談して欲しかった。
 相槌を打ちつつそんなことを思うわたしに、俊之さんはさらなる爆弾を放つ。
「今度舞台に立つことになっちゃった」
「ええ?!」
 うちの演劇部はけっこう活動に力を入れていて、人数不足の弱小部活じゃない。入ったばかりの新人が簡単に役をもらえるようなものじゃない。
「その友達が脚本書いたんだけど、新学期の初めに俺のことを見ていたらなぜか連想した役があるって熱心に何度も何度も説得されて……」
 さっき下着姿を覗かれた時と同じくらい真っ赤になって、やたらともじもじしてる俊之さん。
「どんな役なんですか?」
 もし近いうちに元に戻ったら、わたしが演じることになるかもしれないのだ。恥ずかしがってる相手から聞くのは少しためらわれるが、どうしても気になる。
「……活発なんだけど、内面はとっても女の子らしい、恥ずかしがり屋のお嬢様ってキャラクターで……」
 顔をますます赤らめて、ついに口ごもってしまった。確かにそれは、彼が男の人であることを知ってるわたしにはなるべく言いたくなかったことかも。
「だから、その、さっきはその役のことを考えていたら、急に紅葉さんが入ってきたから、つい女の子みたいな悲鳴上げちゃったんだ」
「ああ……。でも、俊之さん演技も上手なんですね。あの悲鳴、すごく真に迫ってましたよ」
 わたしが褒めると、照れたように俯いてしまった。
「う、うん。それで、さ。あの、舞台で恥かきたくないから、もっと練習したくて……」
「はあ」
「こうして逢う時とか、電話で話す時とか、紅葉さんらしくお嬢様っぽい口調と仕草で話してみようと思うんだけど、いいかな?」
「……わたしはいいですけど」
 ちょっとだけ、不安になる。一人暮らしだし外出してもことさら男らしく振る舞う必要もない生活をしているわたしと違って、学校でも家の中でも女の子らしくしなければならない俊之さんが男の人に戻れるのは、わたしと話している時だけなのに。
 でも、俊之さんががんばろうとしているのを妨げるのも悪いと思い、わたしは反対はしなかった。
「よかった……。じゃあ、今からね」
 そう言って手を叩くと、俊之さんは生まれついての令嬢みたいに清楚で可愛らしい口調でしゃべり始めるのだった。

 近況を報告し合った後は、入れ替わりについての情報交換。でも、この二ヶ月あれこれ調べたこともあり、新情報はわたしがネットと図書館で見かけたいくつかに留まった。それらにしても、読み物や小説の形で描かれている、当てになるか怪しい代物で、しかも陰陽五行だの星の配列だの、勉強に時間のかかりそうな理論ばかり。
 わたしたちがすぐに元に戻るのは難しそうだと改めて思った。


 若月家を出て、アパートへの帰り道。俊之さんと自分のことを考える。
 『紅葉』らしく振る舞おうと努力を重ねている俊之さん。それに引き換え、たぶん全然『俊之』らしくないわたし。
 でも、わたしは男性らしく行動することにどうしても抵抗を覚えてしまう。自分のことを「俺」と言う度に、言い慣れない語尾でしゃべる度に、心の中の『わたし』が少しずつ削られてしまうような、そんな感覚に囚われて。
 俊之さんは、女の子らしくしていても『俺』が失われたりはしないんだろうか。
 今度逢った時、聞ければ聞いてみようと思った。


 アパートに帰り、夕食を済ませた後は勉強。
 そのうち、ふと股間が盛り上がり出す。
 異性の生活についてあれこれ思い悩んで、それに染まることをためらいはしても、身体の性別が違うことだけはどうにもならない。
 最初のうちは無視しようとした。無視できないと気づいてからは我慢しようとした。わずか五日目でトランクスを汚して、我慢なんて不可能なことを悟った。だから今は日課として、したくなったらすぐ済ませるようにしている。
 この身体になってからたまに読むようになった青年向けの漫画では、部屋の中でいきなり始めたりしているけれど、弄っていれば毛も抜けるし、触った後には手もすぐに洗いたい。なのでわたしはトイレでするようになった。
 便座に腰掛け、トイレットペーパーをぐるぐると巻き取って左手に構える。右手で硬くなったものを握りしめる。
 頭の中に、今日の午後見た光景が浮かんだ。
 ブラジャーを着けようと両腕を背中に回している俊之さん。白いブラジャーと白いショーツだけに包まれたきれいな身体。背後の大鏡に映し出されたボリュームのあるお尻。
 こちらを向いた時に大きく揺れ動いたポニーテール。恥じらいと不安が入り混じる瞳。赤く染まっていく顔が、ひどく可愛らしい。
 あれは『紅葉』。二ヶ月前までわたしのものだった身体。なのにその姿を思い描くと、二ヶ月前からわたしのものになった股間の物体は大きく太く剛直していく。
 ほんのわずかな指先の刺激で、快感は再生紙の中に解き放たれた。
 次第に慣れ始めた虚しさの中、後始末に先端を拭き取りながら余韻を味わう。脳裏に再び半裸の『わたし』が現れる。
 するとついさっき果てたはずのものが、むくむくと力を取り戻していった。虚脱感が新たな発射への衝動に塗り替えられていく。
 わたしは少しためらった後、新たな紙を引き出して、生まれて初めての一日で二度目の行為に取り掛かった。



 その次に逢えたのは十日後だった。六月に入ってすぐ、まだ梅雨入りはしていない。
「学園の文化祭って、一般開放はしてないんですね。よかったら紅葉さんにも見てもらいたかったんですけど」
 お芝居はまだ終わっていなくて、俊之さんは今日も演技を練習するため女の子らしい振る舞い。『紅葉』の学校の文化祭は六月上旬で、全校生徒を前に成果を披露するのはその最終日。
「しかたないですよ。それに今のわたしが行っても、却って浮いちゃうと思いますし」
「あ……ごめんなさい、無神経なことを言ってしまって」
 深い意味もない返事だったのだけど、俊之さんに謝られてしまう。
「考えてみれば、入れ替わって以来、紅葉さんは学園に行けなくなってしまったんですよね。上京してきたばかりのわたしと違って、紅葉さんはお友達とも会えなくなって……」
 憂いに沈んだ表情で俯かれてしまう。
「いえ、あの……寂しくないって言ったら嘘になりますけど、その、俊之さんが気に病むほどのことじゃないですよ。今の暮らし、かなり気に入ってますし」
「え?」
「一人暮らしってすごく楽しいです。わたしずっと甘やかされて育ってきたから、最初のうちは家事も色々失敗しちゃいましたけど、やってくうちに少しは上達していってるのが自分ではっきりわかるのが面白くって」
 別にしょげてしまった俊之さんを慰めるための方便じゃない。現状について感じていることを、わたしはただ率直に語る。
「……そう、なんですか」
 それが伝わったのか、俊之さんも顔を上げてくれた。戸惑いの中にもかすかな安堵の表情が浮かんでいる。
「まあ、男の人になっちゃったのは困ってますけどね。というわけで、情報交換始めますよ」
 それでもやっぱり、これはというものは見つけられなかった。俊之さんが新たに発掘した海外サイトに魂の交換がどうのというものが複数あったので、分担を決めて次に逢うまでに訳しておくことにした。


「今日は楽しかったです、また来てくださいね、俊之さん」
 俊之さんに『俊之さん』と呼ばれるのはいつだって変な気分。でも今は玄関先でお母さんと並んでわたしを見送ろうとしているのだし、しかたない。
「紅葉、あれはどうしたの?」
「あ! ちょっと待っててくださいね、俊之さん」
 わたしにペコリと頭を下げると、俊之さんは台所のほうへパタパタと走り出した。

「お見苦しいところお見せしてごめんなさいね。まだまだ子供っぽいところがあって」
「いえ」
 残されたのはわたしと母さんの二人だけ。
 入れ替わる前のわたしは母さんとずっと仲良しで、わたしがよく背中に飛びついたり、母さんが不意に抱きしめてきたり、よくじゃれあっていた。
 でも今のわたしは『俊之』であって、母さんの娘じゃない。今の自分が母さんにどう思われているのかがわからなくて、会話もぎこちなくなってしまう。
「あの子も言ってましたけど、ぜひまた来てくださいね。ご近所なんですし、別に用向きがなくたって構いませんから」
「は、はい」
 社交辞令なのだろうか? でも母さんは、わたしににっこり微笑みかけるとさらに続けた。
「最近のあの子ってば、星野さんが来る日になるとそわそわして、なんだか舞い上がっちゃうんですよ。親バカかもしれませんけど、傍で見ていて本当に可愛くって」
 ええと………………。
 でも、俊之さんは男の人で、元々は『俊之』なんだから、この身体は本来の自分のもので……。
 たぶんそれは母さんの誤解なんだろうと考えることにした。
「最初のうちは、何せ急にあの子が連れて来たわけですから、私たちも少し身構えていたところがあるんですけど……星野さんは、その辺の若い男の子とはどこかちょっと違うようですし、なんだか他人にも思えないし」
 そりゃそうだよね。わたしは本当は女の子で、お母さんの娘なんだもん。
 思うだけで口には出せない言葉が心の中で膨らんでいく。このまま続けていたら、他人のふりをした会話なんてできなくなるかもしれない。
 そう思った頃、俊之さんの軽やかな足音が戻って来た。
「お勉強、がんばってくださいね」
 にこやかに告げる最後の一言だけど、なんだか釘を刺すようなプレッシャー。でも娘の彼氏と誤解している浪人生相手には、母親として言いたくなる台詞だろうなと納得できた。

「あの、これ……よかったらお夕飯のデザートかお夜食にどうぞ」
 おずおずと俊之さんが差し出したのは小さく瀟洒な紙袋。中を覗けば、保冷剤に囲まれた愛らしい透明な容器の中で、おいしそうなプリンが揺れている。
 入れ替わった後もプリンが大好きなわたしにとってはとても素敵な差し入れだ。どこのお店で買って来たんだろう。そんなことを思っていると、母さんが言った。
「紅葉ったら、今日は学校から帰って来たら制服も着替えずにせっせと作ってたんですよ。早く冷やさないと間に合わなくなっちゃうって」
「お母さん! 内緒にしてって言ったでしょ!」
 俊之さんが顔を赤くしながら頬を膨らませた。
 お母さんの誤解、だよね……?


 その日の晩、俊之さんの作ってくれたプリンを食べ終えると(ちなみに味は、信じられないくらいおいしかった)、わたしはパソコンをネットにつないだ。俊之さんからメールで送られてきたurlをクリック、アルファベットの海の中に足を踏み入れる。

 こうして入れ替わりに関する調べものをするようになってから、英語の成績がかなりアップしてきた気がする。覚える単語は特殊すぎてあまり役に立たないけど。
 大雑把に文章をチェック。最近はわたしも俊之さんも勘が働くようになってきたけど、最初のうちは「発想の転換」を促すビジネスマンへの啓蒙とか「心のありようを変える」よう訴える宗教方面とか、散々外れを掴まされたものだった。今はもう少し魔術とか呪術とか、少しは解決に近そうなサイトを見極められるようになってきている。
 もっとも、実際に効き目があればとっくに元に戻っているわけで、たちの悪い外れを掴まされるようになっただけ、とも言える。
 それでも「抽象的な御託や概論ではなく、具体的な説明や実行可能な行動プロセスの記述を求める」という今の方針はたぶん間違ってないはずだ。わたしたちは現実に入れ替わっているのだから、それへの実際的な対処法を示してもらわなければ始まらない。

 その方向性に沿ってずらりと並ぶurlを切り捨てていくと、最後に残っていたサイトのテキストが今まで読んだことのないタイプの文章で、わたしのアンテナに引っかかった。
 ボストンの医学者とプロフィールに書く匿名の人物が、ジュニアハイスクールに通う自分の娘と息子に起きた出来事を綴った文章。
 自分自身がこの入れ替わりを経験する前なら、ただの小説だと受け止めたに違いない。でも文章から受け取れるお堅い雰囲気は最後まで崩れずひどく生真面目で(後でチェックした日記など他の項目の記述を見ていってもその印象は変わらなかった)、小説的な余裕は見当たらず、むしろ事実だけを丁寧に記録しようとしているように思われた。
 テキストは、ある日突然心が入れ替わった姉と弟の様子を二ヶ月間に渡って描き、末尾には数年後に記された多少の追記がなされている。
 結論から言ってしまえば元に戻る方法が判明したわけではない。けど今までのどのサイトの文章よりも、それはわたしを惹きつけた。
 一番熱心に繰り返し読んだテキストの最終章。そのタイトルは「Accept」。



 翌日に俊之さんからメールが来た。一週間後に逢いたいとのこと。
 一週間悩んでも結論は出ず、当日、わたしは風邪を引いたと偽って、俊之さんと逢わなかった。



 俊之さんに仮病を使った翌日、予備校から帰宅して十分後にチャイムが鳴った。
 ドアを開けると、怒っているような、同時に今にも泣き出しそうな、複雑な表情でわたしを見上げる俊之さんが立っていた。すっかりばれてるようなので観念するしかない。
 立ち話もなんなので、部屋の中に入ってもらった。
「き、昨日、メールもらった後、このアパートの近くまで来たんだよ」
 すごく久しぶりに聞く俊之さんの男言葉だった。
「そしたらおまえがピンピンした顔で外へ出て行って、呑気にスーパーで買い物なんかしてるから……」
 文化祭で芝居を終えたのだからもう女言葉の練習も必要ないわけだけど、却って違和感がある。入れ替わった直後は女の子の姿でしゃべる男性というイメージだったのに、今は女の子が演技で男っぽくしゃべってるという感じ。
 あのテキストを読むまでは不思議に思いつつも無視するしかなかった疑問。でもあれを読んだ今、わたしは答えの可能性を一つ知っている。
「で、どういうつもりなんだよ。深い理由でもあるのか? それとももう俺なんかに逢いたくないってだけなのか? 返答次第じゃ、ただじゃおかねえからな」
 こんな仮説を俊之さんに突きつけるのは嫌だったけど……ここまで迫られたら、話すしかない。
「俊之さん」
「な、なんだよ」
「まずはこれを読んでください」
 翻訳してプリントアウトしてあったテキストの束を手渡した。怪訝そうな顔をしていた俊之さんも、『娘のティナが自分はトニーだと、息子のトニーが自分はティナだと主張し始めたのは、イースターの翌朝だった』という冒頭の一文が目に入った途端、真剣な面持ちで目を通し始めた。



 十五歳のティナと十四歳のトニー。心が入れ替わったと主張し始めた姉と弟についての、父親による観察記録。
 本当に入れ替わったわたしと違い、当事者ではない父親は彼らの言い分を鵜呑みにできない。当然ながら最初は不審と疑いの念で、朝廊下でぶつかったら入れ替わってしまったという二人の主張を聞くことになる。
 だけど彼は二人の父親であり、頭ごなしに否定したりするような真似はしなかった。二人の言動はまさしく二人が入れ替わったらこうするだろうと思えるもので、互いに父親と入れ替わる前の自分しか知らないような細かい昔の出来事を記憶していた。悪ふざけの可能性は常に頭に置きつつも、パニックに陥って泣きじゃくる二人を彼は優しく受け止め、学校を休ませると善後策を検討する(妻とは死別していたので一人で)。
 と言っても、最初と同じように頭をぶつけても戻れないのはわたしたちと同じ。結局、二人の生活を入れ替えて暮らしてもらうことになった。

 これもわたしたちと同じ、一歳違いの入れ替わり。でも高校三年生と浪人生のわたしたちと違い、この二人は中学での入れ替わり。普通に考えれば姉のティナとして一学年進級してしまった弟のトニーの方が大変に見えるところ。でも彼らの場合、トニーが飛び級も狙えるくらい頭が良かったのと対照的に、ティナは落第寸前の成績だった。
 対照的と言えば性格も正反対。ティナは勉強についていけなくなった頃から遊びにのめり込み、警察の厄介とまでは行かなくとも、小さなトラブルはいくつも起こしていたとのこと。一方のトニーは物静かで落ち着いていると父親は評している。
 ドラマや漫画なら、そんな二人が入れ替われば、慣れない環境で今まで通りに行動しようとして発生する、あるいは下手に相手の演技をしようとして生じる、ドタバタこそが見せ所となるかもしれない。
 でも父親は二人に今の自分の立場を冷静に教え、二人も無用なトラブルは起こさないよう努めた。すなわち、ティナになったトニーはトニーだった時同様に物静かな勉強家として行動し、トニーになったティナはあたかもトニーのように落ち着いた振る舞いをしようと心がけて生活するようになった。弟の評判を落とすわけにはいかないとティナは語っていて、根は優しい子なのだろう。
 そうしてトニーの方は数日で新たな学校生活に順応し始めたが、ティナは苦戦した。当初、入れ替わった相手のふりをするのは外出している時だけだったわけだが、悩んだ彼女は家の中でもトニーらしくしてみると五日目に宣言した。

 そして元に戻れないまま三週間ほど過ぎた頃、トニーとなったティナに変化が生じ始めたと父親は気づく。
 ティナだった時に読んでいたファッション雑誌を買わなくなった。自室で机に向かうのが当初はポーズに過ぎなかったのに、いつしか真面目に勉強するようになっていた。

 二ヶ月後になると、もはや変化は明らかだった。
 口調や仕草が、芝居とは見えないほどトニーそのものになった。食べ物の好みがティナだった時と大きく変わって、トニーとそっくりになった。好んで見るテレビ番組が昔とまったく違うものになっていた。
 トニーそのものになりきってしまったというわけではない。相変わらず自分はあの日トニーとぶつかるまではティナだったと言っているし、ティナだった時の記憶は保ち続けている。けれどその言動と嗜好は、すっかり様変わりしてしまっていた。
 それに対し、ティナになっているトニーは入れ替わる前とあまり変わらない。


 最終章は入れ替わりから半年後。トニーの身体のティナは、ガールフレンドと付き合うようになった。
 入れ替わりが起きる前からトニーと仲の良かった少女だ。少女が積極的にアプローチしたのか、あるいはティナから誘ったのか、父親は話を聞かされていないという。
 そのことはティナになったトニーを不快にしたという(つまり……筆者はぼかしているが、ある程度まで関係が進んだということなのだろう)。
 そしてトニーの身体のティナは、自分を「トニー」と呼ぶよう家族に告げた。自分は今後トニーとして生きる、と。
 記録している父親の感情については書かれていない。文章が進むにつれ、彼はただ起きた出来事を淡々と記録するようになっていった。もちろんそれは、彼がこの事件に対して無感動になっていったということを意味するわけではないだろう。

 文章の末尾には四年後の追記。十九歳になったティナの身体のトニーにボーイフレンドができたことを、簡潔に記していた。



「……自分が」
 最後のページまで読み終えた俊之さんが、ぽつりと話し始めた。
「だんだん変わっていくの、感じてた。どんどんどんどん感じ方も考え方も女の子みたいになっていって」
「……はい」
 二人で過ごしていた時の「演技」も、その一因だったろう。それともひょっとして、あの時すでに変化は明白になっていて、「演技」と説明すること自体が演技だったのだろうか。
「男だった時のこと、忘れたわけじゃないの。どうしてたか、どう考えてたか、どう感じてたか、全部ちゃんと覚えてる。でも、『今の自分』はそんな風に考えることも感じることもできなくなっていった。幼稚園に入る前の、ちっちゃい頃の自分がした色んな変なことが、今じゃもうできないみたいに」
 わたしは、まだそんな風にはなっていない。『紅葉』だった時の自分と『俊之』である今の自分の間には連続性が保たれている。
「……なるべく俊之さんには見せたくなかったんです。他の文章とは違って、これはすごく本物って気がしましたから、却って」
「…………そうだね。紅葉さんがそう思った気持ち、わかります」
 自分たちと同じ経験をして、そして元に戻れないままの二人。演技をしてるうちに『自分』が変わっていってしまった人。
「でも……やっぱり早く見せて欲しかった」
 わたしを見つめながら話す俊之さんの瞳が、次第に潤み出す。
「え?」
「だって、わたし、不安だったんですよ? 紅葉さんはあまり変わらないのにわたしだけがどんどん変わっていくことが」
「あ……ごめんなさい」
 わたしは結果の方にばかり目が行っていたけど、リアルタイムで過程に悩んでいた俊之さんにしてみれば、同じような人がいたことは一種の安心感にもなったことだろう。
「それに……」
 言葉を詰まらせると、俊之さんはわたしの胸に飛び込んできた。
「え、あの……」
「昨日、あんなことになって……昨夜は、ベッドの中で泣いちゃいました」
 くぐもっているのは、わたしの洋服に顔を押しつけているせいだけではない。
 わたしは、俊之さんを、今のわたしよりずいぶん背が低くて華奢な女の子を、恐る恐る抱き寄せた。
「もしかして、わたしに見せないためにずっと逢わないつもりだったんですか?」
「そこまで深く考えてませんでした」
 数日はごまかしも通じたかもしれない。でも、元々最初にサイトをチェックしたのは俊之さんなんだし、いずれは自分で目を通したに決まってる。
 それに、俊之さんとずっと顔を合わせないなんて、とてもできない相談だ。
「わたしは、一週間紅葉さんと逢えなくて……すごく寂しかったです」
 シャツを通じてもわかる、顔の熱さ。
「わたしも、です」
 気持ちを落ち着かせてあげたくて、長くて艶やかな髪を優しく撫でる。
「その、わたしは、気持ちが変わっちゃって、でも紅葉さんはあんまり変わってないから、たぶん、意味合いは違うと思うんですけど……」
「そうかもしれませんけど、あまり差はない気もしますよ」
 確かに、今わたしが抱いている感情は、異性の恋人に対するそれではない気がする。姉妹や同性の友達、あるいは異性であっても幼なじみや兄弟へ向ける気持ちに近そうな。
 でも、そんな気持ちがやがて変化しないわけでもないだろう。少女漫画ならよくある話だし。
「俊之さんと、ずっと一緒にいたいです」
「…………………………うれしい」
 小さい小さい声で、でも心の底からうれしそうに、俊之さんが呟いた。



 翌日、「風邪が治った」わたしは若月のお屋敷へ。俊之さんが本当に幸せそうな笑みで出迎えてくれる。
 それはいいんだけど、会話しながらも俊之さんの表情や視線がこれまでのものよりレベルアップしていて、ちょっと落ち着かない。
 わたしにとって俊之さんはまだ双子の姉妹みたいな感じだけど、今の自分を受け容れた俊之さんにとってのわたしはすでにもっと別の存在。だからしかたないと言えばしかたないけど。
「紅葉さん……キスしませんか?」
 顔を赤く染めながらそんなことを言う姿は、写真に撮ったら「恋する乙女」以外のタイトルは何も似合いそうになくて、とっても可愛らしいけど。
「いいですよ、はい」
 横を向いて頬を差し出した。
「……ほっぺたじゃありません」
 ちょっぴり膨れてあちらもそっぽを向く。そんなところも、甘えん坊の妹を眺めるみたいな気分にさせられる。
「俊之さんは、嫌じゃないんですか? 三ヶ月前までの『自分』とキスするのは」
 わたしは、まだちょっと切り換えができない。
「だって、今のわたしはかなり『紅葉』に近くなっちゃってますもの。『俊之』って、今は紅葉さんが中に入ってるからかもしれませんけど、素敵な男の人に見えるんですよ」
「そ、そうですか……」
 わたしにしてみたら、初めて出逢った直後に自分の顔になってしまったわけで、鏡を見ても異性としてどうこうなんて気持ちになったことはない。
 やっぱり変化の度合いが違うと意識も全然違うものである。
 そんなことをわたしが言うと、俊之さんは柔らかく笑う。
「でも、今のこの感じ、わたしは好きかも。その……いくら好きな男の子でも、いきなり乱暴なことし始めたら困っちゃいますから」
「それはそうですね」
 ティナになったトニーのことを考えれば、外でもほとんど演技をしてないわたしが変化するには五年以上はかかりそう。学生のうちはプラトニックな関係を保つんじゃなかろうか。
 ふと思いついたことを言ってみる。
「わたしたち、元々の性別が反対でなくてよかったですね。俊之さんがお屋敷の男の子になりきっちゃって、一人暮らしで気持ちはまだ男の子のままの女の子なわたしのところに昨日みたいに来てたら、あの場で襲われちゃったかも」
 そしたら、俊之さんは見る見る顔を真っ赤にして両手で顔を覆ってしまった。
「そ、そんな、襲うなんて破廉恥です……」
 あれ? だってこの話を振ってきたのは俊之さんなのに。
「あの、俊之さん? さっき言ってた男の子の乱暴なことって何のつもりだったんですか?」
「それは……例えば、急に荒々しく抱き寄せてきて、無理矢理キスするとか……」
「どんな箱入り娘ですか!? 元々『紅葉』だったわたしよりよっぽどうぶですよ!」
「だって……男の人って、今のわたしよりずっと大きくって強いから、ちょっとおっかなくって……」
 もじもじしながらそんなことを言う。やれやれ。背の高い男の子から小柄な女の子になっちゃった分、怖がりになっちゃったのかしら。
 でもそんな姿はやっぱり可愛らしくて、ちょっと子供っぽい意地悪をしてみたくなる。
「じゃあこういうことすると、嫌いになっちゃいます?」
 女だった時はついぞ試みようともしなかった男役。俊之さんを素早く抱き寄せて、驚いた顔に断りも入れずキスをする。
 けれど俊之さんってば嘘つきだ。最初はびっくりしていたくせに、すぐにとろけそうな眼差しになって、わたしにしがみついてきた。
 せっかくのファーストキスは女の子とのキス。しかも元の『自分』とのキス。
 でもそれは、不思議なほどに心地好くて、自然に受け容れることができた。


スポンサーサイト
[PR]

FC2公認の男性用高額求人サイトが誕生!
稼ぎたい男子はここで仕事を探せ!
この記事に対してトラックバックを送信する(FC2ブログユーザー)
http://girltf.blog22.fc2.com/tb.php/7-7ec35edb

0件のトラックバック

2件のコメント

[C48]

もう、このサイトの管理をされていないかもしれませんが、感想を書かせてください

入れ替わった後の紅葉の葛藤、そして、最後のキスに至るまでの変化が素晴らしく書かれているなぁ、と思いました

素晴らしい小説をありがとうございました
  • 2011-11-28
  • torainu
  • URL
  • 編集

[C49] ご感想ありがとうございます

torainuさま、コメントありがとうございます。そして気づくのが遅れて申し訳ございません。
入れ替わり後の葛藤や戸惑いと、それでも少しずつ順応していくことによる変化とが好きなもので、そこを評価していただけたのはうれしい限りです。
きちんと管理できているとはとても言えない状態なのは心苦しいですが……。

コメントの投稿

投稿フォーム
投稿した内容は管理者にだけ閲覧出来ます

Appendix

プロフィール

茶

Author:茶
小説『おれがあいつであいつがおれで』で入れ替わりに、漫画『ヒロインくん』でTSに、アニメ『まんが日本昔ばなし』のあるエピソードで女性の変身にはまりました。

ご連絡はirekae☆writer.interq.or.jpまでお願いいたします(☆を@に変えてください)。

FC2カウンター

ブログ内検索

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。