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[C1] ブログ開設お疲れ様です

実は本ブログ掲載の改訂版の方をじっくり読めていませんが
ブログ開設と聞いて早速駆けつけました。
よろしければ自サイトのリンク集に加えさせて下さってもよろしいでしょうか?

[C3] いらっしゃいませ

maledictさん、早速のコメントありがとうございます。
リンクのご提案もしてくださってありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします。ご迷惑でなければこちらからもさせていただこうかと思いますが、いかがでしょう?(追記:そもそもリンクフリーでしたね。伺うまでもない質問をすみません)

改訂といいましても、全体でもせいぜい数行書き加えただけですので……。新しいものも早くお見せできるようがんばりますね。

[C8] 遅れました、すみません

相互リンクの件のお返事、読み落としていました。
早速加えさせて頂きます!

[C12]

趣味じゃないのにじっくり読まされたwwwGJwww

[C13] ご感想ありがとうございます

hさん、はじめまして。
多くの人を拒絶して読む人を限定するような題材なのに、お読みくださって本当にありがとうございます。頻繁な更新とは行きませんが、よかったらまたお越しください。

[C23] 初めまして。

初めまして、壱と申します。
以前からちょこちょこお邪魔させて頂いてましたが、勇気を出してコメをば…´ω`;

大変楽しく読ませて頂きました!
決して趣味のジャンルではないのに、最後までちっとも飽きずに読まされました。
脱出に成功したと思ったら…のとことか、私までショック受けちゃいました(笑
TFのツボを突きつつもシチュ優先ばかりでなく、1つの小説として完成されていて本当に唸らされました…。
あと、実は私♀なのですが…ベルゼブブに惚れましたv(笑

他の作品にも、また是非感想書かせて下さい!
恐ろしく読みにくい文で恐縮ですが;

ではでは、失礼します!

[C24] ご感想ありがとうございます

壱さん、初めまして。

>以前からちょこちょこお邪魔させて頂いてましたが、勇気を出してコメをば…´ω`;

ありがとうございます。そういう方にコメントしていただけると、また格別のうれしさです。

>大変楽しく読ませて頂きました!
>決して趣味のジャンルではないのに、最後までちっとも飽きずに読まされました。
>脱出に成功したと思ったら…のとことか、私までショック受けちゃいました(笑
>TFのツボを突きつつもシチュ優先ばかりでなく、1つの小説として完成されていて本当に唸らされました…。

ありがとうございます。
元々マイナーなTF物語にさらにいくつかの要素が加味されて、これらすべてを最初から抵抗なく受け入れ楽しんでくれる方はさすがに少ないだろうと予測しておりました。
だからいつも以上に……というわけではありませんが、キャラクターの気持ちの動きとか文章とか、趣味・嗜好に大きく左右されない普遍的なところでなるべく失点しないよう気をつけて書きました。
最初はあてどもなく掲示板に書き連ねたものなので、気分の赴くままに書いたものではありますが、フローランスが羞恥や苦悩をあれこれ感じ続けるような展開を考えるうちに、ストーリーも決まっていった感じです。

>あと、実は私♀なのですが…ベルゼブブに惚れましたv(笑

そう言っていただけると作者冥利に尽きます。人間とは何か違う、けど単なる悪として片づけられないような存在を目指して、描写してみました。

>他の作品にも、また是非感想書かせて下さい!
>恐ろしく読みにくい文で恐縮ですが;

読みにくいなんてことはまったくありませんよ。
他にも好みに合うものがありましたら、どうぞお気軽にご感想をお聞かせください。
今現在、少し長めの話に取り組んでいて、ブログ更新はいくらか先になってしまうのが心苦しいですが、今後ともよろしくお願いいたします。

[C53]

素晴らしい作品でした

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ベルゼブブの娘

PINKちゃんねる/エロパロ&文章創作板の
【異形化】人外への変身スレ【蟲化】および【異形化】人外への変身スレ第二話【蟲化】
に投稿した作品に多少の加筆修正を加えたものです。

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「君の仲間は逃げてしまったようだね」
 地面に転がるわたしを見下ろしながら、男は言った。
 城の舞踏会にでも出るのがふさわしそうな上品な服装に身を包んだその男。しかしこんな地下迷宮の最奥部に居を構えているのだから、ただの人間のわけはない。何よりそれは、わたしの両脚を食いちぎったケルベロスが従順な子犬のように男にすり寄っていることからも明らかだ。
 悪魔。それもかなり位の高い奴。
「早く……殺しなさいよ」
 仲間たちが逃げたことを恨みたくはない。正直、わたしたちの力ではケルベロスに勝てるわけがなかったのだから。まして頼みの綱の回復呪文を唱えられるわたしが、こうして戦闘不能に追い込まれてしまっては。
 それに、逃げるのがあれ以上遅れていたら彼らはこの男を相手にする羽目になっていた。そうなったら全員が無駄死にしていたことだろう。
 だが、男はわたしの言葉に不思議そうな顔をしてみせた。
「殺すとは穏やかではないね。私はそういう荒事には飽きてきたのだよ」
 情けないことに、その言葉に一瞬何がしかの希望を抱いてしまった。
 死にたくない。


 僧侶は冒険者の中でもとりわけ死に近い職業だ。他の戦士や魔術師は、戦闘の際に殺すか殺されるかという形でしか関わらないけれど、教会に勤めていれば必然的に死人と数多く出会うことになる。
 治癒呪文が追いつかず、わたしを恨めしそうに見上げて死んでいった人。防腐処置がすぐ施されなかったせいで蘇生呪文も意味がないほど腐敗しきった子供の死体。それをさも愛おしそうに抱きかかえてやって来た、まだ若い母親。蘇生呪文を使える首都の司教への口利きを、涙ながらに頼みに来た老人。
 そんな身近に溢れる死を、わたしは昔からただただ恐れていた。
 回復呪文を唱えるのが上手だった。ただそれだけの理由で、周囲もわたし自身もわたしが僧侶になると信じて疑わなかった。
 天才少女なんて呼ばれていい気になっていたのは最初の一ヶ月程度。それからはずっと死の影に怯えつつ死の近くに暮らしながら、十七歳の今日まで過ごしてきた。
 冒険の誘いがあるたびにすぐ引き受けていたのは、死をもたらす存在であるモンスターが怖かったから。自分の手で滅ぼせるものは全部滅ぼしてやりたかった。
 だけど今日、こうして返り討ちにあっている。


 腿の途中から先が失われ、だらだらと血が流れている。回復呪文を唱える精神力もすでに尽きている。もう助からない。
 悪魔は思わせぶりなことを言ったけれど、人間の感情の揺らぎを捕食するというあいつらのことだ。わたしの期待や再度の絶望を味わいたいだけだろう。
 わたしは舌を出し、それを噛み切ろうとした。
「命を粗末にしてはいけないよ」
 不意に、悪魔がわたしの胸元に手を置いた。
「?!」
 するとそれだけで、わたしは身体の自由を奪われた。顎を動かすわずかな力も入らない。
 そしてわたしは、異常な感覚に捉われた。
 悪魔が手をついている胸元。そこから、わたしの身体の内側に何かが入り込んでいる。その異物には五本の指があり、わたしの身体の中で自在に動き回りながら、何かをしようとしている。
 ……わたしの中身を捏ねて、別のものを作り出そうとしているかのように。
「君たち人間は悪魔をこう呼んだりするね。『死と破壊の権化』と」
 悪魔は、ひどく楽しそうな顔でわたしを見下ろしながら言った。
「だが今では、少なくとも『死』は正しくない。人間が死の間際に見せる心の動きは、確かに美味ではあるけれど、所詮一度しか得られないものだからね」
 いつしか、わたしの脚からの出血は止まっていた。実際に見られるわけではないが、痛みは止まり、不思議なことに身体全体から力が湧いてくるようだった。
「君たちが牛や羊を養うように、我々も最近は君たちを養うようになりつつあるんだよ。まあ、今回のこれは異例だがね。庭先に迷い込んできた可愛い子だ。特別に手をかけて大事に大事に育ててあげたいと思っている」
 そんな悪魔の猫なで声を聞きながら、わたしは眠気に包まれていった。身体はますます活力を取り戻していくのに、手や脚を動かそうにも動かせないことを不思議に感じつつ。
「そうそう、自己紹介がまだだったね。私の名はベルゼ……」
 最後まで聞く前に、わたしは眠りに落ちていった。





 甘美な匂いが鼻を衝いた。
 目を覚ますと、わたしは真っ暗な場所に横たわっていた。
「生きてる……」
 思わず呟いた。
 傷の痛みは完全に引いている。どこかが欠損しているという感覚もなく、あの時の悪魔の行為によって、わたしの傷は完治したようだった。
 だが身を起こそうとすると、手足は拘束されているのか少しも動かすことができない。つまり、今のわたしは捕虜の扱いを受けているということだろうか。ただし壁や床に固定されたり繋がれたりしているわけではなく、不恰好ながら身をよじらせて這うように動き回ることはできそうだ。
「ここは、どこ……?」
 再び呟いても、返事は返ってこない。暗闇の中、ただ嗅覚を刺激する匂いだけが辺りに立ち込めている。わたしの周囲一帯、身を横たえる床からも、身をもたせかけようとした壁からも。
 いや、その柔らかい何かが部屋全体を埋め尽くさんばかりに充満していて、わたしはその真っ只中に放り込まれているのだ。
 それが何かは、見ることができないのでわからないけれど。
 それにしても、不思議な気持ちだった。
 悪魔に囚われているというのに、この暗闇の中でわたしはなぜか心安らぐ気がしていた。もともとわたしは闇が嫌いで、寝る時もランプの明かりがないと落ち着かないくらいなのに。
 それにこの、奇妙な充填物。おいしそうな、いい匂い。
 身をよじらせた際に少し口についた『それ』を舐めてしまったが、今までに食べたことがないほどおいしかった。
 眠っている間にどれほど時間が経ったかはわからないけれど、お腹はとても空いている。はしたないとは思ったが、手が使えないのだからしかたない。わたしは『それ』に顔を突っ込んで、夢中になって食べ出した。
 食べながら、どういうわけか心が満たされていくような感じがする。
 この暗闇の中で、『これ』を貪り食う。それが、今のわたしにとっては最も自然なあるべき姿であるような気分になっていた。
「おや、もう食事を始めていたのかい」
 不意に悪魔の声がして、わたしは身を強張らせた。心に緊張が甦った。
「ふむ、ショックに対する精神の防衛機構と言ったところかな。まずは反応を楽しんで、そこから記憶を消すなり何なりのケアをするつもりだったが、その必要はなさそうだね」
 わたしには意味のわからないことをいいながら、わたしの周りを歩き回っている。
「まあ、このまま適応されてしまうのは面白くない。一旦は元に戻すとしよう」
 そう言うとわたしの身体に手を当てる。再びわたしは眠りに落ちていった。





 再び目を覚ますと、今度は燭台で照らされた明るい部屋の中にいた。
 今のわたしは上等なベッドに横たわっている。手足を自由に動かすこともできる。
 身を起こして立ち上がり、部屋の隅にある大きな鏡に向き合ってみる。
 肩まで伸ばした金色の髪。青い瞳。白い肌。冒険者仲間や教会の同胞、教会を訪れる人々などに美しいとよく言われる顔立ち。「清楚で知的」とか「温かく清らかな笑顔」なんて言葉で持ち上げられたことも一度や二度ではない、わたしがひそかに、しかしそれなりに自慢に思っている顔。
 そしてネグリジェに包まれた、女性らしい適度な丸みを帯びた身体。
 そこにいるのはいつも通りのわたしだった。顔も身体も汚れてはいない。
「あれは……夢?」
 手も足も動かせない状態で床を這い、そこに転がっている何かを一心不乱に食べ漁った、浅ましい自分の姿。あんなものは夢として片づけたい。
 いや、だとしたら、その前も夢だったのではないだろうか?
 悪魔に捕らえられたことも、仲間に置き去りにされたことも、突然遭遇したケルベロスに足を噛み千切られたことも。
「気分はどうかね?」
 わたしのそんな都合の良い空想は、不意にすぐ傍に現れた悪魔によってかき消された。
 暗闇の部屋は夢かもしれないが、自分が虜囚の立場にあることは紛れもない現実だった。

「では私の居城の案内をするとしよう。ついてお出で」
 悪魔の言葉に唖然としていると、相手はわたしを見つめて微笑んだ。
「帰りたいなら止めはしないが、その際は私の援助など期待しないでもらいたいね。私の配下や番犬には手を出させないけれど、この屋敷を一歩出れば野生の魔物がうようよしている地下迷宮だ。君一人では地上に帰還するのも、そこから山と森を踏破して街まで帰り着くのも、かなり困難ではないのかな?」
 悔しいが、それは否定しようのない事実だった。わたしは想定しうる無数の危険という見えない鎖でこの悪魔に拘束されていることを自覚した。
 一人ではどうしようもない。誰か腕の立つ冒険者が救いに来てくれる、そんなわずかな可能性に備えておくしかないと覚悟を決め、わたしは静々と悪魔の後に続いた。

「まずは生活の基本だね。君の部屋の隣にあるから不便はしないことと思う」
 言いながら、悪魔がわたしたちの出た部屋の隣のドアを開ける。
 とたんに、鋭い臭気が鼻を刺した。思わず咳き込み、涙まで出そうになる。
「ふむ、人間の身にはやはり刺激が強いかな。何せ地下深くなのでね、流し去るわけにはいかないんだよ」
 照明も壁紙も上品な装いの小部屋。その中央には便器が置かれていた。臭気はその便器の中央に穿たれている深く暗い闇から立ち昇っていた。
「防臭の魔法を壁と扉に施すだけでは足りないか。よし、便器も後で処理しておこう」
 悪魔は気軽に言って、案内を再開する。魔法薬が収められた部屋や図書室など、わたしに教えてどうするつもりなのかわからない施設を巡るうちに、不意に明るい広間に出た。
「鏡をいくつも使って、太陽と月の光が差し込むようになっている。廊下や君の部屋にも光の通路はつながっているから、気が向いたら光を採り入れてみるといい」

「夕暮れ時にディナーにしたい。入浴などはそれまでに済ませた方がいいだろうね」
 悪魔は元の部屋に戻るとそう言った。
「……あなたは、何がしたいの? わたしを優しく世話してどうするつもり?」
「初めて会った時に言った通り、我々は……少なくとも私は、殺すことに飽いている。それよりは生きて様々なことを思う君の心の動きを、時間をかけて味わいたい」
 そこで悪魔は言葉を切ると、わたしに笑いかけた。
「ちなみにね、私は優しくなどないよ。それは君の勘違いだ」
 その笑みは、わたしが初めて見る、「悪魔」にふさわしい不気味なものだった。

 部屋に入って一人きりになると、わたしは教わった通りにスイッチを入れた。
 すると部屋の奥、普通なら窓に当たる部分が、空と眩しい太陽を映し出す。
 鏡だけでなく魔法も使っているのだろうか、自分が地下の奥深くにいるとは思えないほどその風景は自然で、窓さえ開ければすぐ外に出られそうな錯覚さえ覚えるくらいだった。
 これはきっと、悪魔の策略なんだろう。
 地上へ、わたしが本来いるべき場所へ、戻りたい。そんな願いとそれが叶わない苦しみとそれによる葛藤。この景色を眺めているだけで、わたしにはそれらの感情が芽生える。悪魔はそれを楽しもうとしているのだろう。
 ならばそれに乗るのはしゃくだ。わたしはスイッチを戻そうとした。
 しかし装置が壊れたのか、スイッチを弄っても、もう風景は消え去ろうとしなかった。
「……別にいいか」
 わたしが自分の心を平らかにすれば済む話だ。そう考えることにした。
 しばらくぼんやりしていると、中天にあった太陽は次第に傾き赤みを増していく。
 わたしは巨大な浴場へ入って身体をきれいに洗い流し、食堂へ向かった。



 食堂の天井には贅を凝らしたシャンデリアがかかり、床には丁寧に織り上げられた絨毯が敷かれている。テーブルや椅子も、たぶん一流の職人の手になるものだろう。
 そこに置かれているすべての調度品は、以前訪れたとある小さな王国の宮廷のそれを明らかに上回る品質のものばかりだった。
 その部屋にも「窓」はかかっていた。赤い夕陽が山の端に沈みかかっているところ。
「ああ、ちょうどいいタイミングだね。これ以上遅くなったら迎えに行こうと考えていたところだよ」
 悪魔がさも気遣っていたかのように声をかけてくる。
 まるで新妻に話しかける夫みたい、などと連想し、そんな連想をした自分に嫌悪を抱く。悪魔が人間に優しい言葉をかけるのは、相手を篭絡するために決まっているのに。
「さあ、とりあえずは椅子に座ったらどうかな?」

 紅く染まっていた空が次第に夕闇に侵食されていく。
 その光景を地下迷宮の奥深くで眺めながら、悪魔と向かい合って食前酒を口にする。
 事態があまりに異常すぎて、まともな感覚は麻痺しそうになっていた。
 そのせいか、つまらない些事を頭の中で考え込んでしまう。
 それは、目の前の悪魔の態度。
 さっきは新婚の夫婦になぞらえるなんて莫迦なことをしたが、何くれとなくわたしの世話を焼くその姿は、もっと違う何かをわたしに思い起こさせた。
 子を溺愛する母親? いや、わたしの仏頂面に頓着せず、わたしの受け答えなんて期待せずに一方的にしゃべり続けるその姿は、別のどこかで見たように思う。
 その時、巨大なトロールが、蓋をかぶせられた大きな銀の皿を持って現れた。
「おお、メインディッシュの到着だ」
 それは本当に大きな皿だった。背丈も横幅もわたしの倍はあるトロールが、両手を一杯に伸ばして運んでいるくらいなのだから。
 蓋のせいで料理の量はわからないが、もし山盛りになっていたらわたしが丸ごと埋まってしまいそうな分量になるはずだ。
 悪魔とはそれほど大喰らいなのだろうか? わたしはそんな疑問を覚えた。
 トロールはなぜかその皿を部屋の隅、それも床の上に置いた。
「さあ、こちらへおいで」
 悪魔は立ち上がって皿に近寄ると、わたしを手招いた。
 その仕草に、思い当たる。
 あの態度は、人がペットに対する時のそれだ。親愛の情を示し、優しく扱い、しかし、自分より程度の低い動物に対する優越感を隠そうともしていない、あの振る舞い。
 羞恥と怒りに顔が赤くなった。唇を噛んで、椅子から立ち上がることを全身で拒んだ。
 しかし悪魔は、出来の悪い飼い犬を見るように、穏やかな態度を崩さなかった。
「君の推測はたぶん正しいし、自尊心の高い人間がそんな時に怒るのも無理はない。だが今は、少なくとも椅子からは立った方がいいと思うよ」
 そう言うと、悪魔は「窓」から空を眺めて続けた。
「私は君にある魔法をかけている。月の光が関係する魔法でね。そうなると、君はたぶん椅子から転げ落ちてしまうんだよ」
 空からわたしに視線を転じ、気味の悪い笑顔を向けた。
「姿が変わってしまうからね」

「姿が……変わる?」
 その言葉に、わたしは不吉な響きを感じ取った。
 例えば、髪や肌の色が変わるとか、角や尻尾が生えるとか、その程度の生易しいものではない気がした。
 だいたい、椅子から転げ落ちるというのは何を言いたいのだ。
 その部屋から逃げ出そうと立ち上がったわたしに、悪魔が言った。
「どこへ逃げても無駄だね。廊下にも君の部屋にも他の部屋にも、月と太陽の光は隈なく射し入るようになっている」
 そうだ。悪魔に言われ、わたしはあの部屋の「窓」も開いていた。
「おとなしくここへ来るのが賢明だと思うよ。ここには君の新たな身体に相応しい食事が準備されているのだから」
 悪魔は立ち尽くすわたしを手招きしながら床に片膝をついて皿の蓋を取る。
 その途端、わたしの鼻を不快な臭気が襲った。
 皿には、先ほどトイレの奥から漂ってきた、あの臭いの元が山盛りになっていた。
「じょ、冗談じゃないわ!! そ、そんなもの、わたしが食べられるわけ……」
 恐ろしい想像に捉えられ、必死になって悪魔に反駁しようとしたわたしは、その時視野の片隅にあるものを認めた。
 「窓」の端から姿を覗かせ始める、青白く輝く満月。
 変化はたちまちわたしの全身に及んだ。


 浴場から出た際に準備されていた、純白のドレス。
 とっさにその中に身を埋めても、まるで意味はなかった。
 薄紙に点じた火のように、布地の隙間から差し込む月の光がわたしの身体を蹂躙する。
 腕と足が、恐ろしい勢いで縮んでいった。しゃがむ姿勢も取れなくなって床に転がる。
 倒れた時に顔にかかった長い髪が、幻のように消え去っていく。
 すでに手足が完全にめり込んだ胴体。その中から骨が失われ、内臓が作り変えられる。
 悲鳴を上げようにも普通に声が出せない。それどころか口の形が変わっていく。
 自分の肉体の変容を信じたくなくて、わたしは何かから逃げようともがいた。手も足もない状態で、胴体を必死にくねらせた。
「気分はどうだい?」
 しかし悪魔はものの数歩でわたしに追いつくと、ドレスにくるまれたわたしを拾う。
 布をめくり上げてわたしを見下ろした悪魔は、気持ち悪いほど優しい笑みを浮かべた。
 それはさっきまでよりも親しみを込めた、人間に例えるなら、親戚の赤ちゃんをあやす時のような笑顔だった。
 一方のわたしは、部屋のあちこちから放たれる光がなぜかとても不快で、それらから逃れようと懸命になっていた。
「やはり光は苦手なのだね。まあ、しばらくの辛抱だよ」
 話しかけながら、悪魔はわたしを床に下ろす。あの皿の前に。
「さあ、さっきはともかく、今はおいしそうに感じるんじゃないかな?」
 悪魔の言う通りだった。
 変化の終わった今、その皿に乗っている穢れた物体は、やけに甘美な匂いを発していた。
 目の前に今やうずたかく積み上がっている、銀の皿に盛られた魔物の糞尿。
 姿が変わったためか、今その形はぼんやりとしか見えない。だが人間だったついさっき見たばかりの光景は、はっきりと脳裏に焼きついている。
「召し上がれ」
 床に横たわるわたしを高みから見下ろして、悪魔が言う。
 でも、こんなものを食べられるわけがない。
 何に姿を変えられていても、わたしは人間だ。人間がこんなものを食べてはいけない。
 それなのに、わたしの中で狂おしいほどに高まる感覚があった。
 食欲。
 自分の姿を変えられたおぞましさ。悪魔に対する恐れや怒り。今後に対する激しい不安。そんな諸々の想念を掻き消すように、ただこのおいしそうな匂いを発する物を食べたいという気持ちばかりが高まっていく。
 人間としての理性がどれほど押さえ込もうとしても、全身が激しく訴えている。これを食べたい、このおいしそうな糞尿の山に頭から突っ込んでひたすら貪り食らいたい、と。
「君が人間の身体のままなら、そのためらいは真っ当なものだろうね。けれどその身体はそういうものを食べるようにできている」
 わたしを誘うように、悪魔が言う。
「月の光が射し込まなくなるのは、夜が明ける頃。人間の姿に戻れるその時まで、君は我慢できるかな?」
 わたしには、できなかった。
 数分間身をよじって悶えた末に、わたしは魔物の糞をがつがつと食べ出した。


 食べて、食べて、食べて、いつしかそのまま眠っていた。


 鼻に突き刺さる悪臭に、わたしは目を覚ます。
 吐き気を伴うその臭いから床を転がって逃げ惑い、混乱しながら周囲を見渡した。
 豪奢な造りの部屋を眺めるうちに、自分が悪魔に囚われていることを改めて思い出す。
 そして昨夜、姿をおぞましい何かに変えられて、悪魔が差し出した魔物の排泄物を……。
 記憶が甦った瞬間、わたしは吐いた。
 吐いたと言っても胃液だけ。床に手をつき、どれほどえずいても、口の中に入ったものは完全に消化されていて、身体の外に吐き出すことはできなかった。
 涙に滲んだ目をしばたたかせつつ、遅ればせながらわたしは自分が人間の姿に戻っていることに気づく。
 「窓」から射し込むのは朝の陽光。あの忌まわしい月は消え去っていた。
 あれは悪い夢だったと思い込めれば幸せなのだが、全裸で糞尿塗れの浅ましい状態がそんな逃避を許さない。
 それでも、その時のわたしは、自分が人間に戻れたことについてはただただ喜ばずにはいられなかった。
 太陽が沈めばまた月が昇ることすら忘れて。



 次の日の朝、わたしはまた糞便の中で目を覚ました。

 昨日は現れた悪魔に促されて入浴した後、一日中与えられた自室に篭もっていた。
 無駄とは思いながらも、悪魔に部屋へ立ち入らないように頼んだりもした。
 あの悪魔は、そんな頼みだけは律儀に聞き届けてくれた。
 月の光を浴びたわたしはまた手足のない存在に変化し、それと同時にたまらないほどの飢餓感に襲われた。
 入浴後、悪魔に朝食へと誘われた時は断ったし、それ以降は部屋から出ていない。当然と言えば当然の成り行きだ。
 空腹は生き物から理性を奪う。
 食べたい。食べたい。食べたい。その感覚だけが全身を衝き動かす。
 ベッドから転げ落ち、床を這いずってドアまで辿り着く。しかし手足のない今のこの身体では、ドアを開けることはおろかドアノブまで身体を伸ばすこともできない。
 食欲はもはやわたしの全てとなっていた。お腹が空いた。何でもいいから食べたい。声の失われた身体で、わたしは心の底からただそれだけを願った。
「ドアを開けてもいいかい?」
 ドアの向こうからの悪魔の言葉は、その時のわたしには天使の歌声のように響いた。
 開くと同時に廊下へもぞもぞと這い出す。そんなわたしを悪魔は優しく抱え上げ、食堂へ連れて行った。
 前日と同じ皿に盛られた糞尿を、ためらいもせずに一心不乱に食べ始めた。

 朝の光に照らされた自分の惨めな姿を見下ろして、わたしは泣いた。
 昨日は混乱と虚脱で呆然とするばかりだったが、今朝は自分の姿を客観的に眺める妙な余裕が生じていた。だから泣いた。
 一日の半分を人間でない姿で過ごす、しかも魔物の糞尿を貪り食う、それが今のわたし。
 つい数日前までのわたしは、魔物に立ち向かう僧侶として人々に憧れの目で見られていたのに。美しい十七歳の女として冒険者仲間から色目を使われ、表向きは澄ましていながら内心では満更でもないと得意になっていたのに。
 溢れる涙を拭おうとしたが、両手は臭く汚れていてできなかった。
 人間の嗅覚では糞を悪臭と感じることに変わらない。だから皿から距離は置いた。でも昨日の朝のように吐こうとまでは感じなかった。
 一昨日の晩、そして昨日の晩。二日続けてたっぷり食べたそれは、わたしにとってすでに食べ物の一種になっているのかもしれない……。
 そこまで考えて愕然とし、慌てて打ち消す。それは姿の変わった時の話。本当のわたしは人間なんだ。だからこんなものは単なる忌避すべき汚物に過ぎないんだ。
 そう言い聞かせるが、すでに目に馴染み始めたその存在に、以前のような激しい嫌悪感は感じなくなりつつある。
 わたしは裸身を両腕で抱いて大きく震えた。
 心の有り様が変わってしまうことを恐れ、この境遇から何としても抜け出さねばならないと固く誓った。

 入浴を済ませた後、しっかり朝食を取った。まともな食べ物を多く食べておけば、少しは晩に襲われる飢餓感を減らし、ひいては口にする糞の量を減らせるかもと考えたからだ。
 そしてわたしは一昨日悪魔に案内された図書室へ足を運んだ。
 月の光を浴びることで発動する魔法。それを打ち消すことさえできればわたしは普通の人間に戻れる。
 もちろんそれだけではすぐ悪魔に魔法をかけ直される。魔法の解除は悪魔の手を逃れると同時に行わなければ意味がない。その手段はどうにかして考えておかなければならない。
 だが、とにもかくにも魔法を何とかしなければ。
 悪魔がどんなつもりでわたしをここに案内したのかは知らない。あるいはわたしを悪魔の側につけようと企んでいるのかもしれない。けどあちらの思惑などどうでもいい。
 自分の浅慮を後悔させてあげる。
 悪魔の魔法が人間向けの言葉で書かれているわけもないだろう。だがわたしは教会勤めの頃、死人や怪我人となるべく関わらずに済むように、古文書の解読や外国語の教典翻訳に積極的に取り組んでいた経験がある。その甲斐あって、わたしは語学に関してそれなりに勘が働くのだ。
 今はまだ字形を読み取るのも困難な異界の言語に、わたしは突き進み始めた。
 時間だけは山ほどあるのだから。





「おお。ようやくだね」
 四ヶ月ほど過ぎた後のとある晩。いつものように飢えを満たそうと糞を食べ漁りながら(人間として普通の食べ物をどれほど腹に収めても、変化後の食欲は衰えなかった)、わたしは変化した身体が妙に強張っていることに気づいた。皮膚が突っ張るような感覚が全身を覆っている。
「本当なら遅くとも九週間ほどでそうなるはずなんだが、君は一日の半分しかその姿になれないからね。倍の時間がかかるのも無理はない」
 何を言っているのかよくわからないが、聞き逃すには重大な何かを語っているようにも思える。おいしそうな匂いを振り切って、わたしは悪魔に頭を向けた。
「ああ、気にせず食べ続けながら話を聞いておくれ。何、大したことじゃない」
 悪魔は改めて糞を食べ出したわたしが聞き取りやすいよう、膝をついて言った。
「君はもうじき蛹になるんだよ」

 朝焼けの光に目を覚ましながら、わたしは昨夜悪魔が告げた言葉を思い出していた。
 わたしはもうすぐ蛹になる……。
 単に目先のことだけで考えればありがたい話だ。そうなれば月の光を浴びてもわたしは魔物の糞をがつがつ食べないで済む。しばらくは、一日の半分をただ眠って過ごすことになるだろう。
 だが、蛹はいずれ成虫になる。
 その時わたしは、幼虫である今以上に浅ましいおぞましい存在に成り果てそうな気がしてならなかった。
 逃げる算段は整いつつある。後はじっと機を待つばかりだった。


「明日は一日、外に出る用があってね。晩には帰って来るが、気楽に過ごしておくれ」
 数日後、悪魔が待ちに待った台詞を言ってくれた。
 悪魔は一週間に一度ほど外へ出る。何の用かは知らないし知りたくもないが、とにかく外出して居城を空ける習慣がある。そして明日、待望のその日が訪れた。
 最近の、「幼虫としてのわたし」は、すでに全身の皮が硬くなっている。きっと、もう一日か二日で蛹になってしまうのだ
 だがそんなことになる前に、わたしは人間に戻ってみせる。
 わたしは今夜でこれも最後と思いながら、糞を食べていった。

 いつものように糞の中で目を覚まし、浴室で汚れを洗い落とす。悪魔の気配はない。
 わたしは動きやすい服装に身なりを整えると、図書室へ向かった。
 この四ヶ月である程度は読めるようになった魔道書を開き、最後の確認をしながら紙に二つの綴りを書き写す。混同しないように注釈も忘れない。
 そして魔法薬が収蔵された部屋へ足を踏み入れた。
 掌にすっぽり収まる小さな小さな壜。そのラベルに書かれた綴りとメモした綴りが完全に同じであることを確認し、ポケットにしまう。
 魔道書で取り上げられていた、『月の光』が関係する『変化の魔法』は一つだけ。この薬はそれを打ち消す効果を持っていると紹介されていた。
 今すぐ飲んでもいいのだが、まずはこの悪魔の棲家を脱出しなければ話にならない。
 わたしは部屋を捜索し、別の綴りが記された大瓶を見つけ出した。
 大瓶に満たされている紫色の毒々しい液体を指先に取る。ためらう気持ちはあったが、戦闘力に乏しいわたしには、他に脱出の方策もない。
 わたしは濡れた指先を額につけて、液体で紋章を描く。
 この居城の扉や壁や、いたるところで目にする紋章。あの悪魔固有の紋章。
 この液体で身体のどこかに特定の悪魔の紋章を描くと、その者はその悪魔のしもべになったことになる。簡便な契約であり、一種の呪い。
 こうすれば、地上までの道中、迷宮に巣食う野良の魔物が襲ってこないはずだ。
 もちろん地上に出たらすぐに教会へ駆け込み呪いを解いてもらう。これくらいの呪いは容易に解けるはずである。
 わたしは行き交う魔物の間を通り過ぎ、ケルベロスの前を抜け、迷宮へ足を踏み入れた。


 額の紋章は鮮やかに効果を発揮して、魔物たちはわたしに近寄っても襲いかかったりはしなかった。
 仲間たちとともに一度通過しただけの迷宮は道筋が入り組んでいて、一人では何度も道に迷ってしまったけれど、忌まわしい境遇から抜け出せる希望に胸膨らませてわたしは歩を進めていった。
 延々と歩き続け、何度となく階段を上り下りし、ようやくわたしの目に明るい外の光が飛び込んで来た。
 萎えそうになる足を奮い立たせて最後の階段を上る。すると野外の開放的な空気がわたしの全身を包み込んだ。空は次第に西に傾き出してはいるが、日没まではまだしばしの猶予がある。
 四ヶ月前、仲間とともに迷宮に挑んだ高揚感。一人取り残されて死に直面した恐怖。悪魔に囚われて、人ならぬ醜い姿に変えられて、汚らしいものを食べさせられた屈辱。
 色々な感情が胸にこみ上げてきて、わたしは思わずその場にへたり込むと顔を覆って泣き出した。

 どれほど泣いていただろう。
 顔を上げれば太陽はすでに茜に染まり西の山の端に没しようとしている。
 もうじき月が出てしまう。
 わたしは慌ててポケットから小壜を取り出すと、蓋を開けて薬を一息に飲んだ。

 その途端、わたしの全身に変化が生じた。
 四肢が力を失って、棒のように地面に倒れ込む。頬にかかった長い髪の毛が、幻のように消え失せてしまう。
「そんな……嘘……」
 それは、すでにわたしにとって馴染み深い感覚。
 手足が粘土細工のように不気味に蠢きながら体内へ縮んでいく。身体の内部の構造が作り変えられる。視覚が弱まり、光に対する嫌悪感が生まれ、高まる。声を上げるのも叶わない。口蓋の形が変わっていく。逃げ出そうにも逃げ出せず、無様に横たわる胴体をくねらせるだけ。それすらも、蛹に変わりつつある今となっては難しい。
 この四ヶ月、新月の晩以外は夜毎必ずわたしを襲った変化。わたしが人でないものに変わっていく……あの、醜い蛆虫に変わっていく、その時の感覚。

 全身を襲う変化にもはや成す術もなく、わたしはただ自分がなぜこんな状況に陥っているのかをぼんやり考える以外することがなかった。
 薬が間違っていたのだろうか? でもラベルの文字は何度も確かめた。仮に別の薬だったとしても、あの魔法には月の光の存在が欠かせないはず。けれど今、月はまだ地平線の奥にその身を潜めているはずなのに……。
「四ヶ月の独学では無理もない話だがね、君はあの魔道書を少し読み違えていたんだよ」
 いつの間にか。
 わたしを見下ろすように、悪魔が立っていた。


 その柔らかで落ち着いた声を聞きながら、わたしは自分が単に泳がされていただけだったことを知った。相手を出し抜くどころか、すべては向こうの掌の上の出来事だったのだ。
「あの変化の魔法における月の光の役割は、魔法が効果を発揮するキーではない。むしろ
逆なんだ」
 ……え?
「あの魔法は月の光によって効果を阻害され、姿を変えられていたものを本来の姿に戻すんだよ」
 悪魔の言葉は聞こえている。けれどその意味を思考が組み立てられない。
「だから魔法を打ち消す薬を飲んだ今、君は本来の姿を取り戻したというわけさ」
 そんなはずない。そんなはずない。
 だって、今のわたしは……
「ケルベロスに致命傷を負わされた君は一度命を落とし、私の手によって甦った。魂を新たな肉体に宿らせてね」
 手もなく足もなく声も出せず暗がりを好み糞尿を貪り食う……
「蠅の王たる私、ベルゼブブの子。それが今の君の正体だよ」
 わたしは、声にならない悲鳴を上げた。

「この四ヶ月、君からは実に様々な感情を味わわせてもらえた」
 死にたい、死にたい、死にたい。
「糞尿を喰らうことへの羞恥と自責。自己憐憫。私に対する恐怖。かと思えば現在の生活に慣れていくことへの不安。魔道書を理解するたびに高まる希望と喜び。脱出計画を練りながら湧き上がる興奮。そしてクライマックスの今日は、絶え間ない緊張、解放感、じわじわとこみ上げる歓喜、そこから一転しての虚脱感と絶望……」
 死にたいのに死ねない。今のわたしはただの蛆虫だから。崖から飛び降りることも舌を噛み切ることもできはしない。
「正直、私は驚いているよ。君が我々の言語を大まかにとはいえ理解し、私が準備した脱出のための手立てをきちんと活用して、ここまで自力で戻ってきたことにね。そんな人間は今まで一人もいなかった」
 ベルゼブブはそう言うと、わたしの前に膝をつく。
 これまでよりも近い位置でわたしを見下ろし、続けた。
「今から君は蛹になり、五週間後に成虫になる。魔法も解けた今、本来なら君は私の元で生きていく他ないのだが……」
 悪魔の言葉に意識が遠くなる。そうだ、よりにもよって自分で魔法を解除してしまった結果、わたしはもう人の姿に戻れない。
 いや。戻る手段が完全になくなったわけじゃない。でもここで悪魔に追いつかれた以上、そんなことは期待するだけ無駄なのだ。
「独力でここまで辿り着いた君に敬意を表し、君には多少選択の機会を与えようと思う」
 そう言うと、悪魔はわたしの身体に指先を当てた。何かが身体の中で変化を起こすのを肌で感じる。
「相変わらず君に分の悪い賭けであることは確実だ。だが、もしもその賭けに勝ち、人に戻ることができたなら、私は君に自由を与えることを誓う」
 その声を聞きながら、わたしは闇に吸い込まれるような深い眠りに落ちていった。





 目を覚ますと、全身が何かに拘束されていた。薄く硬い殻のようなものに。
 わたしは不思議に身が軽くなっていて、全身を動かしたい気持ちでいっぱいだ。だからその殻をこじ開けようと動き回って、頭の上の部分に脆くなっている箇所を見つけた。強いて例えれば、樽の上蓋が外れるような感じ。
 そこをこじ開けると、太陽の眩しい光がわたしを包んだ。
 わたしは解放感に満たされて、全身を持ち上げて穴から日の光の下の地面に這い出る。
 どうやらわたしは、今の今まで地面の下に埋もれるようになっていたらしい。吹く風の心地好さに全身を震わせ、新鮮な空気に感謝する。
 だが周囲を見渡そうとした次の瞬間、心のすべては混乱と恐怖で占められた。
 無数の視界がわたしの脳に飛び込んでくる。異常に広い視野。細かく捉えられる周囲のものの動き。
 そして、その視野の片隅に映った、わたし自身の姿。
 人間ほどの大きさを持つ、醜い蠅。
「嫌っ! 嫌っっ!! 嫌ぁぁぁぁっっっ!!!」
 人間のそれとは異なる形の口吻から、なぜかわたし本来の声が悲鳴となって迸った。
 だがそれを落ち着いて考える余裕などない。手とも足ともつかない六本の肢をじたばたと振り回し、次第に広がりつつある背中の羽をばたつかせ、わたしは変わり果てた自分の姿のおぞましさにのた打ち回り続けた。


 もがくように羽を動かすうちに、わたしは宙に浮いていた。理性で意識するよりも早く、この身体は飛ぶことを本能で悟っているということか。
 だが人としての意識は蠅としての行動に適応などしていない。急に不安定になった態勢に怯え、わたしは身近な木の幹にしがみつこうとしていた。
 するとわたしの六本の肢は、その幹にぺたりと貼りついた。どうやら肢の先にはいくつも吸盤があり、それによって垂直な場所にもこうして留まることができるようだ。
 と、その吸盤がはがれそうになる。地面をのた打ち回るうちに土や砂にまみれたせいで、吸着力が弱くなっているのだ。
 わたしは思わず肢を摺り合わせた。それによって吸盤の汚れが落ち、吸いつく力が回復できる。そうと気づいたわたしは四本の肢で身を支えながら、前の二本、真ん中の二本、後ろの二本を、交互に摺り合わせていった。
 しばらく無我夢中だったわたしは、やがてそんな自分の姿を客観的に意識した。
 宙を飛び、木の幹に張りつき、肢を摺り合わせる。何と立派な蠅だろう。
 本当のわたしは、フローランス・ベルは、人間なのに。
 天才少女なんて呼ばれ、将来を嘱望された僧侶だったのに。長いきれいな髪やそれなりに整った顔とスタイルで男性の好評を博し、気取らない笑顔で女性や子供さえ魅了した、ちょっとしたアイドルだったのに。
 今のわたしは、ただのおぞましい化け物蠅。
「こんなの嫌……やだ……」
 呟く声は、人間だった時から唯一変わらないソプラノ。だが浅ましい姿と声のギャップが耐え難く感じられる。
 しかし、その時わたしの思考に一筋の光明が射し込んだ。
 都には、身体に回復不能の深刻な傷を負った人の魂を新たな器に受肉させ、健康な本来の姿を取り戻させる秘儀がある。
 蘇生呪文などと同様、功績なり教会上層部とのコネなりがなくては施してもらえない。
 だが幼い頃から教会に勤めて、教区民の治癒や聖典の翻訳、さらにモンスターの討伐までこなしてきたわたしなら、たぶん期待できるはずだ。
 もちろん、こんな姿で都に行ったところで殺されるに決まってる。しかし教会関係者や仲間の冒険者の口利きがあれば、きっと……。
 そして、最初に彼らと接触する上で、この声は大きな助けになるだろう。わたしのことをフローランスだとわかってもらうのは、決して不可能じゃない。
 悪魔の……ベルゼブブの言葉を思い出す。どうやらこの声は彼からの贈り物らしい。
 彼の最後の言葉まで信用できるかは怪しいが、とにかく今は与えられたチャンスを最大限活用するとしよう。わたしはそう心に決めた。



 息絶えた羊が岩肌に横たわっている。群れからはぐれ、魔物が巣食うこんな地域まで迷い込んでしまったのだろうか。
 その死骸は真夏の日射しに炙られて腐敗臭を漂わせ、普通の大きさの蠅がびっしりと群がっている。
 腐肉の臭いに釣られて飛んできたわたしは、死骸に降り立つと腐って柔らかくなった肉に口吻を突き立てて、貪るように腐汁を舐め取っていく。
 化け物蠅として目覚めて三日。わたしがこれまで食べてきたのは果物の実だけだったが、この羊の死骸は果実など比べものにならないほど美味だった。
 爛れた屍肉を漁ることへの抵抗も、この悦楽が打ち消してくれる……そんな風に考え、そう考えてしまった自分に愕然とする。
 四六時中蠅として過ごす中、自分が人の感覚を失いそうになっていくのを感じる。早く街に降りていき、仲間と接触しなければならないのに。
 けれど……今のこのわたしを、みんなはわたしだと認めて助けてくれるだろうか? それを考え出すと怖くなる。
 魔法で姿を変えられるという話は、珍しいけれどないわけじゃない。でもたいていは、猫や犬や馬などの獣または鳥といったところ。酷い場合でも蛙が関の山。
 虫に……それも、糞尿や屍肉にたかる蠅に……変えられたわたしは、どんな風に扱われるのだろう。
 そんなことを悩んでしまい、わたしはこの三日間、洞窟の近くをあてもなく飛び回ることしかできずにいた。こうして羊の臭いに惹かれ、これまでで一番人里に近寄りはしたが。

 と、真後ろの茂みががさがさと音を立てた。蠅の視野でも捉えることはできない位置だ。
 また野良の魔物だろうか。それなら額の紋章を見せればおとなしく引き下がる。
 そう考えて振り向いたわたしは、人と目を合わせることになった。
 十二、三歳ほどの、羊飼いの女の子。今わたしの肢の下にある、いなくなった羊を探しにこんなところまで来たのだろう。
 わたしはその子の顔に見覚えがあった。一年ほど前、この子の弟たちが食あたりで倒れたのを癒してやり、涙を流して感謝されたことがある。
 痛んだものを食べては駄目よと子供たちを教え諭してあげた、あの時のわたし。
 なのに今のわたしは、腐り果てた肉汁を喜んで啜っている。
 そんな皮肉を感じていると、女の子は悲鳴を上げて脱兎のごとく逃げ去った。
 風に乗って聞こえてくる意味を成さない喚き声の中に、「魔物!」や「お化け蠅!!」などのフレーズが混じっている。
 当然の反応に過ぎないのに、自分でも事前に予想はしていたのに、それらの言葉を実際にぶつけられると心が痛んだ。
 ……でも。
 これは却って好都合だと気を取り直す。
 魔物が人里近くに現れたとなれば、きっと討伐の話が出る。そうなれば、ジェラールやイヴォンヌ、ユベールが乗り出してくることだろう。
 わたしが街に行けば人目について大きな騒ぎになるかもしれない。それよりはここで話をした方が、よい方向に運ぶ気がする。
 自分を慰めながら、わたしは改めて食事にとりかかった。
 肉の奥に潜んでいる内臓が、とりわけおいしく感じられた。



 月が中天にかかる頃、一陣の風が吹き過ぎた。真夏とは言え夜風は涼しく、何も身にまとっていないわたしは蠅の身体を縮こませる。
 と、その風に乗っていくつかの音が聞こえてきた。
 ずっと警戒してその音を待ち構えていたわたしは、まだ食べ続けていた羊の死骸から口吻を抜く。羽を震わせ宙に飛び立ち、すぐ近くに立つ背の高い木の幹にへばりついた。相手の死角にあたる位置で、ここなら最初に声だけを聞いてもらえるだろう。
 物音は近づいて来る。複数の人の足音。身につけた鎧や武具がかすかに打ちつけ合う金属音。魔物を警戒して低く落とした話し声。
 緊張が高まる中、他にすることもなく肢を擦り合わせていたわたしの視野の一角に、月明かりに照らされた彼らの姿が入った。
 先頭に立つのは斧を構えた戦士のジェラール。狩人の家に育った彼は勘が鋭くて、何度も奇襲を防いでくれた。後衛のわたしを狙った敵の一撃から身を挺してかばってくれたことも多い、優しい人。
 次に続くのは剣士のユベール。抜き放ったサーベルは、最後にわたしが見たものとは別。あれから半年近く経っているし、また買い換えたのだろう。皮肉屋だけど冷静沈着で、よくパーティの危機を救ってくれた。
 二人からやや離れて後ろを行くのは、魔術師のイヴォンヌ。頭が切れて合理的な判断を下せる、パーティの知恵袋。月光の下、長い黒髪と鳶色の瞳が神秘的に光っている。
 そして、さらにその後ろ。イヴォンヌの背中に隠れるように歩いている人影がある。
 わたしの代わりに加入した僧侶だろう。
 と思っていたら、その顔に馴染みがあった。
 教会でわたしの二年後輩にあたるコゼット。わたしによく甘えていた、まだ子供じみた可愛らしい子。
 半年前とほとんど変わらない、あどけない顔立ちの彼女が、強張った顔で戦闘の場に足を踏み入れている。それも、わたしの占めていた位置に立って。
 わたしがそんなことに戸惑いとショックを受けているうちに、四人は羊の死骸に気づいて歩み寄って来た。

「ひどい臭いね」
 イヴォンヌが顔をしかめると大袈裟に鼻をつまんだ。
「こいつは殺した魔物のつけた臭いかな? 出たのは蠅の魔物という話だし、これぐらい臭くてもおかしくないよな」
 ユベールが軽い口調で言う言葉が、わたしの胸には痛い。蠅になった自分の体臭なんてわからないが、今のわたしはそんなに臭いのだろうか。この姿になってから糞を食べるようなことはまだしていないのだけど。
「いや、こりゃ単に肉が腐っただけだね。森を歩いてれば動物の死体はよく見かけるけど、そいつらの臭いとおんなじだよ」
 羊の死体を調べていたジェラールが、わたしの聞き慣れた呑気な声音で言った。
「ついでに言えば、魔物につけられたような傷もないよ。この羊は殺されたわけじゃなくて、そこの岩場から落ちて死んだのを、通りかかった魔物が漁ったってところじゃないかな?」
「死因なんてどうでもいいわよ。化け物蠅がこの辺をうろついてることには違いないんだから」
 イヴォンヌが煩わしそうに言う。
「まあ、一匹なら余裕だろう。さっさと見つけて倒して引き上げるとしようか」
 ユベールが剣を振りながら言った。
 三人が話している間、硬い表情のコゼットは無言のまま周囲に落ち着きなく視線を走らせている。
 さて。どうやって声をかけ、どう話を切り出すか。
 不安な気持ちは膨れ上がるばかりだが、このまま隠れていてもしかたない。
 四人の頭上、木の幹の影から、わたしは思いきって声を上げた。

「コゼット、ジェラール、ユベール、イヴォンヌ、助けて……」
 わたしが声をかけた瞬間、コゼットを除く三人はわたしがいる木の上に視線を向け、身構えた。コゼットはこんな場所でいきなり自分の名前が呼ばれたことに戸惑ったのか、ぼんやりと突っ立ってしまっている。
「……フローランス?」
 斧を構えながら、まずジェラールが口を開いた。
 半年前に悪魔の根城で死んだはずの仲間の声。私が三人の立場なら、まず疑うのは悪魔の策略。死体にかりそめの命を与えてアンデッド系の死骸人形を作るか、死体から声だけを抜き取って魔物に移植するか。だがそれらの場合、フローランスの自我は失われる。あの場にいた三人はともかく、コゼットの名前まで咄嗟に口に出せるはずがない。
 よって、残る可能性として、わたしが何らかの手段で生き延びたという選択肢が三人の脳裏に浮かんでいるはずだ。さもなくばとっくに猛攻を受けて致命傷を負っている。
「生きて、いたのか?」
「油断しないで。心を操られているかも」
 ユベールを叱責したイヴォンヌの右手は、すでに赤く輝き出している。火球が形作られるのは時間の問題だ。
 彼女の危惧はもっともである。高位の悪魔となれば人間の精神を束縛することすら可能。胸に飛び込んで来たかつての仲間が笑みを貼り付けたまま短刀を突き刺してきたりしたらかなわない。
 わたしは急いで次の一手を打った。声だけでなく、知識だけでもなく、人間としての心も失ってはいないことを示さなければ。
「コゼット、教会のみなさんは元気? 司教様は相変わらず、朝は寝癖を直すのに苦労してるかしら?」
「は、はい」
 冒険者としては新米の僧侶は、裏返った声で可愛らしく答えた。
「イヴォンヌ、街への帰還呪文を唱える余力は残ってたのね。よかったわ」
 冷静な魔法使いは、わたしの言葉を吟味するように眉をひそめる。でも手の中の火球が膨らむ気配は今のところない。
「ユベール、その剣はまたアイゼンの店で買ったの? つけがだいぶ溜まってたんじゃなかったかしら」
 やや気取ったところのある剣士は、痛いところを指摘されたように顔をしかめる。
「ジェラール、無事でいてくれてよかった」
 ケルベロスに襲われた際、わたしの次に重傷だったのはジェラールだった。
「あの時は怪我をきちんと治してあげられなくて、ごめんね」
「いや……俺こそ、すまなかった」
 朴訥な戦士は、木陰に潜むわたしを一度見上げると、深々と頭を下げた。
「謝って済むことじゃないけど、あの時おまえを見捨てたのは俺の指示だ。本当に、本当に……ごめん」
「気にしないで。あなたの判断は正しかったわ」
 ジェラールはああ言ってるけど、実際には彼の独断ではない。わたし自身が言い出したことだし、イヴォンヌとユベールが同意したのを、最後の最後にリーダー的立場にあった彼が決断したのだ。
「あなたにもう一度会えて、嬉しい」
「フローランス……」
「ジェ、ジェラールさん、気をつけないと……」
 わたしとジェラールが話し込みそうになっていると、コゼットが割って入った。
「心配には及ばないんじゃないかな、コゼット。こうして口をきいている彼女は確かにフローランスのようだし、その傍に化け物蠅の魔物が潜んでるような気配もない」
 ユベールが油断なく剣を構えながらも言い切る。自分がフローランスだと認めてもらった嬉しさとともに、自分の今の姿が化け物であることを改めて痛感させられた。
「ただ……フローランス、あなたどうして木の上なんかにいるの? あなた木登りなんて得意じゃなかったはずだけど?」
 イヴォンヌが当然の疑問を口にしながら、火球を収めた手を今度は光らせ始める。
 まばゆい光の下に蠅となったこの身を晒されるのは耐えられなかった。
「……順を追って説明するわ。それで、お願いがあるんだけど……わたしの姿を見ようとしないで」
「わかった」
 誰よりも早くジェラールが宣言して、口を開きかけていたイヴォンヌたちも黙りこくる。
「ありがとう。……あの時わたしはケルベロスに両脚を食いちぎられて……」


 わたしはほとんどすべてを話した。ただ、自分が人でないものに姿を変えられたことは話せても、蛆虫から蛹を経て蠅になったことだけは口にできなかった。
 イヴォンヌやユベールは間違いなく、ジェラールとコゼットもたぶん、わたしが何に変えられたかは察していることだろう。でも、自分の口からそれを言うことはどうしてもできなかった。
「つまり都に行って受肉すれば、フローランスは元に戻れるってことだな?」
 わたしの話を聞いてジェラールが口を開いたが、続けて一瞬微妙な沈黙が漂った。
「あの……受肉って、お金、かかりますよね……」
 コゼットがその空気を無視するように疑問を口にする。
 彼女の言ったことは正しい。教会とて金を取れる時は金を取る。わけても需要と供給が決して一致しないこんな場合は、莫大な金額を要求する。具体的には、平凡な一家族が十年は暮らしていけるくらいの金額を。
「……まあ、金の心配は後でしましょう」
「……そうそう。借金は避けられないけど……俺たちの稼ぎなら、少し本気を出せば短い期間で返しきれるって」
 イヴォンヌとユベールがコゼットに言うが、彼らの口調も鈍い。
「しかたないだろう、コゼット。今のフローランスには金を工面することなんかできない以上、俺たちが肩代わりするのは当然だ」
「…………」
 ジェラールの言葉にユベールが視線を投げたが、無言。口を開けば口論になると考えているからだろうけど、よくない兆候だ。
「あの……ごめんなさい」
 なのに話題の中心になっているわたしは木の上から声をかけることしかできない。吸盤が汚れた肢を摺りながら言うのが、なおさらみじめだ。
「お金は、元に戻れたら一生かけて返すから……だから、今だけ、お願い……」
「そんな当たり前のこと約束されても『だから何?』としか言えないけど」
 イヴォンヌはどこか険のある目でわたしを見上げる。木陰に隠れる蠅になったわたしの姿を見通すように。
「とりあえず、今しなければならないことを考えなきゃね。フローランスの輸送の問題」
「ん? 帰還呪文を唱えれば一発だろ?」
 いくぶん表情を和らげたイヴォンヌの提案に、ジェラールは怪訝そうな顔をした。
「いきなり街に連れ帰っても騒ぎになるでしょ。何より、フローランス本人が私たちに姿を見られたくないと思ってるんだから」
 言われて、わたし自身もやっと気づく。みんなに出会えれば色々なことがすぐ解決すると思い込んでいたけれど、そう簡単ではないことに。
「彼女が姿を隠す入れ物……例えば、檻とか棺みたいなものがいるわね」
「縁起でもない言葉は使うなよ」
「ごめんなさいね。適切な言葉が思いつかなくって」
 ジェラールの呈した苦言をイヴォンヌはさらりとかわし、わたしを見上げた。
「もう一日待てるかしら? 一旦引き返して、明日の昼間に入れ物を準備して、また今頃って感じになりそうだけど」
「それで構わないわ。わたしならこの辺で待っていられるから」
 仮に魔物が寄って来ても、額のベルゼブブの紋章を見せれば追い払える。
「水とか食べ物とかは、どうなんだ? いくらか置いていこうか?」
「ありがとう、ジェラール。でも平気よ」
 羊の死体という、今のわたしにとっては充分なご馳走がある。飢えも渇きも心配はない。大丈夫だ。もう一日くらい、何てことない。


「じゃあ……また明日な、フローランス」
「ええ、また明日……ジェラール」
 ジェラールとまた挨拶を交わせるようになったことを嬉しく思いながら、わたしは四人を見送る。
 四人の足音が遠ざかっていく。聞こえなくなってしばらくしたら地面に降りよう。
 そう思っていたら、一人だけ戻って来る足音。
 イヴォンヌだ。
「どうしたの?」
「あなたを入れる器の大きさを確かめたいと思ったのよ。降りて来て、私にだけ姿を見せてくれない?」
「…………」
「心配いらないわよ。私も別に新しい呪文覚えたわけでなし、一人で僧侶のあなたを殺しきれるわけないじゃない」
「そ、そんなこと心配してないわよ!?」
 彼女は何を言っているのだろう。そう思った次の瞬間、わたしは自分の今の姿を思い出す。
 フローランスの声で、フローランスのようにしゃべる、巨大な蠅。客観的な視点ではそれが今のわたし。悪魔が何らかの仕掛けを施した危険な魔物であるという可能性も、イヴォンヌの立場では捨てきれないのだろう。
 そんな彼女が害意を抱いていないかとわたしが怯えることまで、彼女は考慮に入れて呼びかけている。
 こうした駆け引きを仲間である彼女としなければならないことが、ひどく悲しかった。
「ジェラールもコゼットもユベールも、こっちには来ないよう言い渡してあるわ」
 そこまで言われたら、降りない方が不審がられて良くない気がする。
「あの……驚かないでね」
 わたしは木の幹から飛び立ち、イヴォンヌの前に降り立った。
「サイズが大きいだけで、姿形は完全に普通の蠅なのね。羊飼いの子には、角とか牙とか触手とか生えてたって聞かされてたのに」
 身体の大きさはほぼ同じだけど、人間と蠅では姿勢が違う。イヴォンヌはしゃがんでわたしの全身をあちこちから眺め回す。
「あの子は一瞬しか見なかったから……勘違いしたんじゃないかしら」
 どうにか受け答えするが、気分は重い。得体の知れない魔物と見間違われたことが、寂しく、少しばかり腹立たしい。
 と、腹立ちを感じた自分に戸惑う。まるでわたしは、蠅と蠅に似た化け物との間には何がしかの違いがあると思っているみたいではないか。
「肢が六本と羽があるってのはどんな感覚なの? 人間だった時と違うせいでまごついたりはしない?」
「そういうことは、ないわ。蛹の殻から出てすぐの時は少し混乱したけれど、その後は飛ぶのも歩くのも自然にできてるの。何だか、今のわたしには肢が六本あるのが当たり前って感じ」
 話している内容が、つくづく人間離れしている。姿を変えられたことのある他の人々は、この異常な体験とどう折り合いをつけていったのだろう。
「蛹? あなたいきなり成虫にされたわけじゃなかったのね」
「え、ええ。その……長い間眠ってたと思ったら、目が覚めて、周りの殻を破ったらこんな姿になってて……」
 言葉を濁す。その前の段階、蛆虫にされていたことまでは言えなかった。
 もっとも、イヴォンヌはそんな告白を聞いても動揺も何もしなかったかもしれない。彼女は魔術師らしく実に冷静だ。わたしに色々聞いているのは単なる知的な好奇心からだろう。
「で、これがその悪魔の紋章ってわけね」
 わたしの複眼に、わたしを正面から見下ろす落ち着き払った鳶色の瞳が無数に映った。
 わたしを気が済むまで観察すると、イヴォンヌは去って行った。
 魔術の実験台に使われる動物もあんな視線で見下ろされていたのかもしれない。
 危害は何も加えられなかったのに、わたしはひどく消耗した気分だった。



 蠅の眠りは浅く、小刻みだ。
 目には瞼などないから、複眼が周囲を広く映し出すまま、不意に意識が途絶える。
 そして何らかの変化を感じ取った時、即座に覚醒して動き出す。本能的な不安に駆られつつ辺りを飛び回ったり六本の肢でうろうろ歩いたりした後、肉体の疲労が一定量に達すると、どこかに静止して意識がなくなる。また何かの折に意識が戻り、疲労から回復した身体で動き回る。そんな繰り返し。
 この蠅の身体はどちらかと言うと夜行性のようだが、丑三つ時の今、わたしはひどく疲れ果てていた。
 ジェラールたちと会って、話をして、どうにか自分の状況を理解してもらえた。
 その安堵感と、それまでに募らせていた恐怖から解放された反動、主にその二つがわたしの心を緩ませていた。
 蠅の成虫になって以来初めての深い深い眠りに引き込まれた。


 なぜか、夢だということは最初からわかっていた。
 わたしはジェラールと二人、明るい森の中を歩いていた。子供の頃に絵本で見たような、ただひたすら美しくて汚れのない森。昔ジェラールが話してくれた、彼が生まれ育った森なのだと、夢の中のわたしは理解している。
 それと同時に、これが単なる夢の中の想像図に過ぎないことも。
 やがて見えてきた小さな家。森と調和した、住み心地が良さそうな家。
 ジェラールがわたしと腕を絡める。わたしは彼に寄り添う。
 家のドアが開き、中から小さい子供が出て来てこちらへ駆けて来る。わたしにもジェラールにも似たところのある、可愛い子供。
 夫と顔を見合わせて微笑み、その場にしゃがんで、飛び込んで来た愛しいわが子を受け止め、両手でぎゅっと抱きしめた。
 そこで目が覚めた。


 夢を夢と把握していた理由はすぐにわかった。
 夢の中のわたしは、今のわたしと違いすぎていたのだ。
 現実のわたしは、複眼で世界を眺めている蠅。二本の足で歩く代わりに六本の肢で地を這う蠅。子供を抱く腕などない蠅。それ以前に、人間の子供を生むことなどできるわけのない蠅。そもそも、ジェラールと恋人でも何でもない蠅。
 暗い気持ちに引き込まれそうになる自分を、強いて奮い立たせようとする。
 わたしはもうすぐ人間に戻れる。そうなれば、いつか今の夢だって実現するかもしれない。
 東の空がうっすらと白み始めている。一日が明けようとしていた。





 ジェラールたちが来る夜まではすることがない。こんな醜い身体を眺め回したり手入れしたりする趣味もない(それでも肢の先を摺ることだけは、せざるを得ないけど)。
 わたしが成虫として目覚めて以来姿を現さない悪魔のことも気にはなるが……それはもう、考えてもどうしようもないことだ。もし本当に彼がベルゼブブなのだとしたら、相手は悪魔の中でも際立って位の高い蠅の王。わたしやジェラールたちに太刀打ちできる相手じゃない。
 彼の自己申告を信じるなら、彼の宣言も信じる。結局今のわたしにできることは、それくらいしかない。ただ、昨夜わたしたち五人があの場で襲われなかったことは、その根拠の一つと言えるのではないだろうか。
 それでも、不安は募る。
「そうだ……」
 ふと思いついて、わたしは口を開いてみた。
 身体のどこから出ているのか、自分でも判然としない声。けれど人間だった時と寸分違わぬその声は、意味ある言葉を紡ぎ出し、聖なる呪文の詠唱を成す。
「打ち砕け!」
 手頃な岩に意識を集中すると、呪文が生み出したエネルギーがわたしの身体から発射され、岩を粉砕した。
 僧侶が使える数少ない攻撃呪文の一つ。その威力は、人間だった時と何ら変わりない。
 たとえ醜い姿に変えられても、わたしは以前と同じように呪文を使える。それを確認できたことは、わたしをいくらか安心させた。
 いざという時は、この呪文で戦おう。わたし以外の皆が逃げる時間を稼ぐために。
 最悪の場合、わたしはあいつに捕まっても構わない。けれどみんなを巻き添えにするわけにはいかないのだから。

 辺りを飛び、まどろみ、時に羊の死骸を漁る。
 そんな風にだらだらと時間を過ごしていると、太陽が真上からやや西に傾いた頃、不意に風に乗って馬車の音が聞こえてきた。視界にはまだ入らないが、風向きで麓から来るのだとわかる。
 ジェラールたちにしては早すぎる。
 近道しようとした商人のキャラバンが、道を間違えでもしたのだろうか。それとも旅暮らしの冒険者たちが、悪魔の情報を聞きつけて征伐に来たのだろうか。
 そう言えば半年前に聞いた噂では、西部のエルスバーグ王国から王子をリーダーとする精鋭のグループが第何次かの魔物討伐に乗り出したとか。諸国を経巡る歴戦の勇者たる彼らとベルゼブブがもし戦ったら、いい勝負になるかもしれない。
 まあ、商人だろうと冒険者だろうと勇者の一行だろうと、今のわたしが出くわしていい相手じゃない。高く飛び上がって木の幹にへばりつき、枝葉の茂みに身を隠して、その場はやり過ごそうとした。
 ところが。
 馬車を連れてやって来たのは、イヴォンヌとユベールの二人だった。


「フローランス、いるんでしょ?」
 木々を仰ぎながら、イヴォンヌが呼びかけてくる。その脇でユベールが馬車の中から布をかぶせた大きな箱状のものを引っ張り出していた。
 馬車から地面に下ろされると、ガシャン! と大きな金属音が響き渡る。
 わたしは少し怯えに似た感情を抱きつつも、葉陰から返事をした。
「は……早いのね」
「ええ、珍しく早起きして街を回ってみたら、道具屋の店先にこんなのが売ってたの。思わずその場で買って、ユベール誘ってここまで来ちゃったわ」
 彼女がにこやかに微笑みながら布を外すと、鉄の棒を格子状に組んだ小ぶりの檻が姿を見せた。
「大型犬を輸送するのに使うんですって。サイズはぴったりよね?」
 確かに、今のわたしがすっぽり納まりそうな檻である。
 動物と同じ扱いを受けることに多少屈辱を感じはするが、今のわたしは化け物蠅。これでも素晴らしい待遇と考えるべきだろう。
 けれど……
「ジェラールとコゼットはどうしたの?」
 ジェラールは、昨夜わたしのことを一番気にかけてくれたのに。それは抜きにしても、この近辺が魔物の生息範囲に接している以上、パーティの一部だけで行動を取るような真似はするはずがないのに。
 わたしが疑問を口にするや否や、イヴォンヌは答えてくれた。
「二人は街で起きたならず者の抗争に巻き込まれちゃったのよ。怪我人が多く出たからコゼットは治療に駆り出されたし、ジェラールはちょっと深手を負って、ね」
「そ、そんな……」
「命には別状ないから安心なさい」
 間髪入れずにイヴォンヌがフォローしてくれたが、わたしは激しく動揺してしまった。
「じゃあフローランス、降りてきてこの中に入って。ほらユベール、あっち向いて」
 てきぱきと指示を出すイヴォンヌ。わたしはジェラールが怪我したというニュースに受けた動揺を引きずったまま、ふらふらと地面まで降りて檻の中に入り込んだ。
 わたしの背後で檻の扉が閉ざされ、上から先ほどの布がかぶせられる。布はすっぽりと檻を覆い、蠅になったわたしの姿を隠してくれる。
 ここから、わたしごと檻を持ち上げて馬車に載せ、呪文で街に着いた後は教会かどこかで檻を下ろしてもらうことになるのだろう。ユベールには力仕事をさせることになって申し訳ない。
 だからわたしは見えない外へ声をかけた。布越しで声が聞こえなかったらいけないと思い、少し大きめに。
「ユベール、ごめんなさいね」
 その瞬間。
 わたしの胴体に鋭いものが突き刺さった。

 背中から腹へ抜け地面に突き立ったそれは、しばらくすると抜き取られた。
 人間だった時も、冒険者とは言え後衛のわたしは腹を刺されたことなんてない。だから今の感覚を以前と比べるようなことはできない。
 ただ、虫の痛覚は人間より鈍いのか、激しい痛みに襲われるようなことはなかった。
 代わりに傷口から全身へ広がっていくのは、強い脱力感。
 精神的な混乱と相まって、わたしは声を出せずに檻の中で竦んでいた。
 と、再び背中から強く刺される。今度はいくらか場所をずらし、またもわたしを地面に縫い止める。
 まるで標本箱の中の昆虫のように。
「死んだ?」
 外からかすかに聞こえてくる、イヴォンヌの声。
「いや、それがよくわからなくて……」
 ユベールが地に這うわたしの頭上で応じる。それと同時に、わたしから再度引き抜かれるものは……たぶん、彼の剣。
「うわ、べたべたしてやがる。……本当に虫なんだな」
 お気の毒様。あなたってば剣のお手入れが大好きなのにね。人間サイズの蠅の体液なんかねっとり付着したらさぞかし大変よね。
 頭の中のどこか冷静な部分が、声に出さずにくだらない相槌を打った。
「もう一回やって」
「もう大丈夫じゃないか? 悲鳴も上げちゃいないし……」
「あなた、そんな簡単に熟練の冒険者を仕留められる自信があるの? それどころか相手は魔物になって前より頑丈になってる危険性が高いのよ」
 イヴォンヌの冷淡な指示が、当のユベールばかりでなくわたしの危機感にも火を点けた。
 このままじゃもう一回刺される。
 慣れない蠅の身体の感覚からそれでもどうにか判断するに、二度の刺傷で受けた傷は恐らく深刻。三度目を受けたらたぶん助からない。
 そうしたら、死ぬ。
 死ぬのは……嫌。
 わたしは声を低く抑えて、呪文を詠唱した。これまでにないほど小声で、早口で。
「傷を癒せ!」
 治癒呪文が瞬時に効力を発揮し、聖なる光に包まれたわたしはダメージから回復した。
「ほら、生きてる」
 光が漏れたのか、イヴォンヌに気づかれた。
 ユベールが次の刺突を繰り出す前に新たな手を打たなければ。
 わたしは再び高速で呪文を詠唱すると、意識を背中の上へと向けた。
「打ち砕け!」
「うわっ!?」
 衝撃が、檻を破り、布を持ち上げ、剣を突き立てようとしていたユベールに向かう。
 狙いは正確でなかったし威力は檻や布に減殺されたが、それでも相手を取り乱させることには成功した。
 開いた穴から全速力で空中に飛び出す。
 と、宙に浮いたわたしを四方八方から小さい火球が襲った。イヴォンヌの攻撃呪文だ。
 だがなぜか、前方からの攻撃は薄い。複眼を駆使し、羽を全力で操って身をよじり、火だるまになることは避けられた。
 けれど蠅になって日の浅い、しかも蠅の身体と人間の意識のギャップを抱えるわたしがすべてを回避できるはずもなく、後方からの一弾がわたしの片方の羽を焼き払う。
 飛ぶバランスを崩したわたしは地面に転がり、必死になって六本の肢で体勢を立て直す。
 地面に近い位置から見上げ、仲間であったはずの二人と対峙した。

「……どうして?」
 半年前までの仲間とは言え、信用なんてされずに襲われるかも、とは恐れていた。だから昨夜だってみんなの前に降り立つことはできなかった(途中からは、今の自分の醜い姿を見られるのが嫌で降りられないままだったけど)。いつでも逃げ出せるよう、かなり話が進むまで身構えていた。
 でも、こんな風に、騙し討ちみたいな目に遭わされるとは思わなかった。
 だからわたしは、わたしを平然と見下ろすイヴォンヌに思わず問いかけた。
 彼女はちょっと肩を竦めてみせた。
「あなたが本当にフローランスなのか、やっぱり確信が持てないのよね。悪魔によって魔物がフローランスの記憶を植えつけられて、自分をフローランスだと信じ込んでるとしたら? そして街に入ったところで私たちの不意をついて暴れ出したりしたら? あっという間に私たちは殺され、戦い手を失った街は簡単に滅ぼされるわ。そんな風に公共の福祉とか秩序とかを考えると、ね」
 立て板に水と正論のようなものをしゃべり続けるイヴォンヌ。かつてのわたしなら反論もできずに流されてしまったかもしれない。
 でもこれは、わたしが生きるか死ぬかの瀬戸際なのだ。
 死にたくない。
 殺されたくない。
「だったら、檻に入れてくれても何でも構わないわよ。ずっと、ずっと、受肉が済むまでその中でおとなしくしてるから……」
「もう一つ。他の人間を説得できる自信もないのよ。昨夜あなたと言葉を交わして色々知った私ですら、あなたの姿を見た時にはパニックに陥りそうだったしね」
 悲しげに眉根を寄せてみせるが、昨夜から一向に変わらない冷徹な視線とは馬鹿げたミスマッチを起こしている。
「自信がないから、わたしを殺すの?」
「言葉にすると単純よね。でも私も一晩悩んだのよ。
私情としてはあなたを殺したいわけなんてないけれど、あなたを連れ帰って今の言葉通りあなたがおとなしく檻に拘束されていても、私たち四人以外誰にも知られずに、受肉の処置が終わるまで養うなんてできるわけないでしょ? 餌だって誰かが世話しなきゃいけないんだし」
 気軽に「檻」や「餌」という言葉を使いながら、説明を続ける。
「そして他人の目に触れたが最後、街が大混乱に陥るのは目に見えてるわ。ジェラールのパーティって言えばあの街で一番信頼されているのに、そんな彼らがよりにもよって化け物蠅……ごめんなさいね、これは街の人がどう思うかって話だから……そんな魔物の蠅に加担してたって誤解されたら、大変な騒動が持ち上がるわ」
「……ジェラールは? こんなこと、彼が許すわけ……」
「そうでしょうね。これに彼は関わってないわ。私たちの独断。一仕事終えて、死骸を焼き払って痕跡を消して、私たちは街に戻るの。そして今夜ジェラールと一緒に再びここを訪れて、いもしないあなたを捜索し、あなたが変わり果てた自分の存在に絶望して姿を消したんだと彼をどうにか納得させる。それでおしまい」
 芝居の筋を説明するようにあっさりと語られるわたしの死。
 でも別の部分が心の琴線に触れる。
「……じゃあ、さっきの話は嘘なのね。ジェラールは大怪我なんかしてないのね?」
 わたしの声には、こんな時なのに露骨なまでの安堵が浮き出ていた。
 それを聞き取ったのだろう、イヴォンヌが鼻白んだ表情になる。
「まあその通りよ。昨夜が遅かったし、ようやく寝床から起きたくらいじゃないかしら。それにしてもこんなに愛されるなんて、ジェラールも果報者だわね」
 その言葉に込められた棘は、次の台詞でより露骨になった。
「でもジェラールにしたって、今のあなたを見ても守ってあげようと思うかしら?」
 言いながらイヴォンヌは隣の剣士を示した。
 ユベールは、わたしに嘲るような視線を向けて言った。
「昨夜は必死に姿を隠してたわけだ。どこからどう見ても蠅だもんな。百年の恋だって冷めるってもんだ」
 いつも通り冷静な、いや、今のわたしにとっては冷酷な、声。
「声だけなら惑わせただろうけど、こうして目で見れば間違いない。こいつは人間の女の声でしゃべるだけの、気持ち悪い化け物蠅だ」
「そんなこと、ない。わたしは……」
「そりゃ自分じゃフローランスのつもりなのかもしれないけどな? 俺たちにとっちゃおまえはフローランスの記憶を持ってる蠅なんだよ。悪魔の紋章を戴いた、ベルゼブブの配下。人間に滅ぼされるべき存在なんだ」
「ユベール……!」
「魔物は魔物らしく、おとなしくくたばりな」
 剣の切っ先を、わたしに向けた。

 仲間二人から向けられた殺気を悲しんでる余裕などない。一触即発のこの状況、隙を見せたらあっさり殺される。
 自分に言い聞かせながらも、わたしの脳裏をふと疑問がよぎった。
「ユベール、どうしてあなた、ベルゼブブのことを知ってるの?」
 わたしは昨夜の説明で、ベルゼブブの名前は出さなかった。悪魔の中でも最強クラスの存在が関わっているなんて、こんな目に遭わされた自分でもどこか現実感がなくて話の真実味が疑われそうなのが不安だったし、その名からわたしが何に変えられたのかが皆に悟られてしまうことを恐れたのだ。
「それと、イヴォンヌ……どうしてさっき、わたしが檻に閉じ込められていた時に、攻撃呪文でわたしを焼き尽くしてしまわなかったの?」
 言葉にすることで思考がはっきりすることがある。
 わたしの頭の中で、昨夜わたしの額の紋章を熱心に覗き込んでいた女魔術師の姿が鮮明に思い出された。そして二人が来る直前に連想した半年前のニュース……。
 不意に閃くものがあった。
「エルスバーグ?」
 わたしの一言に、二人は明白な反応を示した。ユベールの剣先が揺れ、それほど露骨ではないが、彫像のように佇んでいたイヴォンヌまでも身を一瞬強張らせる。
 自分の直感が的を射ていたことを知り、わたしは言葉を重ねていく。
「勇者の一行にベルゼブブの情報を差し出そうってことね? だからわたしの額の紋章は無事に済むよう、最初は呪文を使わなかったし、火球で包囲した時も正面だけは弾幕を薄くしてしまったんでしょ?」
 昨夜イヴォンヌが紋章の形から悪魔の正体を悟り、ユベールに話を持ちかけたのだろう。どちらがわたしを殺そうと言い出したかはわからないが。
 魔物を駆逐したい。それらを使役する悪魔を滅ぼしたい。
 その気持ちは、人間である……少なくとも意識の上では今でも人間である……わたしにはよくわかる。
 そして人間の、そんな力に恵まれた冒険者の中でも、最も強い力を有しているのがエルスバーグの一行であり、それだけに彼らを動かすにはきちんとした証拠を示す必要があることも。
 ベルゼブブの下僕たる化け物蠅の首は、充分な証拠足りえる。
 けど……。
「けどどうしてわたしを殺さなくちゃならないの? 殺すぐらいなら、蠅の姿のままのわたしを直接連れて行った方が、詳しい情報を得ることだってできるのに……」
 わたしの言葉に、ユベールが開き直ったような表情になって、言い放った。
「金にならないだろ?」
「ユベール!」
 イヴォンヌが静止する暇もあらばこそ、ユベールは一気にしゃべりきる。
「この子はベルゼブブに姿を変えられた私たちの仲間でございます。そう言っておまえを差し出して、証言させて、その先はどうなる? エルスバーグのご一行様はベルゼブブを見事討ち果たすかもしれないさ。でもおまえが元に戻るわけじゃない。
腕利きの僧侶くらい抱えているだろうけど、受肉までできるかどうかはわからないし、仮にできてもあんな時間のかかって費用も馬鹿にならない面倒な儀式をわざわざ無料でやってくれるとは思えない。こっちが貧乏にあえいでいるならまだしも、俺たちはそれなりに金の稼げる冒険者だしな。貴重な情報に対して金銭的に見返りはあるだろうけど、どれほど太っ腹だとしてもおまえの受肉費用をまかなうほどじゃない。
結局のところは俺たちのパーティ全体で結構な額の持ち出しになるってことさ」
「…………」
 もう何も隠すことはないと思ったのか、イヴォンヌが言葉を続ける。
「それに比べて、ベルゼブブ配下の魔物の首を渡せば、それだけで悪魔につながる貴重な証拠と見なされるわね。それなりのまとまった金額を得て私とユベールで折半できるわ。ユベールは新しい剣の代金を清算できるでしょうね」
 女魔術師はわたしに問いかける。
「あなたの首を私たちが求めない理由って、あるかしら?」

 反論したかったけど、反論に意味が見出せない。
 わたしを人間だと信じられない。わたしのために無駄な誤解を受けたくない。何より、わたしを助けるために高い金を払いたくない。それくらいならわたしを殺して臨時収入にありつきたい。
 それらは二人の浅ましいエゴ。
 そう指摘しても、返ってくる反応が予想できてしまう。
 死にたくないと思う感情だっておまえのエゴではないか、と開き直って襲ってくるだけ。今現在と何も変わりはない。
 話すうちにも剣士が少しずつ間合いを詰めてくる。その向こうでは魔術師が掌の上に無数の火球を作り出している。
 わたしが羽を癒して逃げようとしても、あの火球に襲われればまた地面へ逆戻り。でも地面にへばりついていては剣に襲われ、そのうちに回復呪文を唱える魔力が尽きて、おしまい。詰んでいる。
「無駄な努力はやめときなさいね、苦痛が長引くだけだから」
 イヴォンヌの含み笑いを合図にしたように、ユベールが身構え剣を引く。
 すぐに鋭く突き出されるであろうその剣は、わたしの頭部を刺し貫くことだろう。目を瞑りたかったが、蠅には瞼なんてない。
 その時。
 近くの茂みから素早く飛び出した影が、わたしの前に立ち塞がった。
 剣からわたしを庇うように、大きな背中を向けて。
「仲間だってのは、大きな理由になるんじゃないか?」
 聞く者の心を落ち着かせる、低いけど優しい声。今は感情を押し殺しそうとするように、いつもよりも一層低い声。
 ジェラールの声だった。



「ジェ、ジェラール……」
 ユベールが大きく後退する。その顔が見る見る青ざめていく。
「……今日はずいぶん早起きね」
「嫌な胸騒ぎがしてな。それにコゼットが妙だったから、話を聞き出した」
 緊張したイヴォンヌの声音に、ジェラールはひどく素っ気なく答える。
 視線を巡らせると、複眼の片隅、ジェラールが潜んでいた茂みに、モーニングスターを抱えたコゼットが立ち竦んでいるのを見つけた。
 彼女もイヴォンヌたちの計画に一枚噛んでいてジェラールの足止めを任されていたのだろうか。それとも協力はしないけど止めもしないしジェラールも関わらせないというつもりだったのか。
 わたしと目が合ったのに気づいたのか、幼い僧侶はわたしから激しく顔を背けた。
「でもな、口で聞かされただけじゃ信じられなかった。だからここへ来た時、三人が睨み合って話を始めたところだったんだが、様子を見させてもらってた」
 そこで口を閉ざすと、重い沈黙が場に横たわる。
 イヴォンヌが焦れたように口を開いた。
「……で、裁判長様、判決は何?」
「二人には街を去って欲しい。コゼットにも冒険者は廃業して教会に戻ってもらう」
「そ、それだけでいいのか?」
「フローランスへの詫びに、有り金と装備は置いていってくれ。受肉はただじゃない」
 ジェラールの付け足した言葉に、浮かれそうになっていたユベールが顔をしかめた。
「正気なの? 私たちが抜けたらパーティ崩壊よ。仕事はどうするの?」
 嘲るようにイヴォンヌが笑いかけてきた。
「しばらくは休業するさ。フローランスが元に戻ったところで新たにパーティを組み直す」
「その間に魔物が街を襲ったりしたら?」
「近隣の村の連中に力を借りる。あいつらとはずっと、困った時はお互い様でやってこれたからな。仲間を殺して売りさばこうとするお前たちより、レベルは低くてもよほど頼りになるよ」
 ジェラールの即答。プライドの高い魔女は、一瞬唇をきつく噛んだ。
「へえ、大した自信ね。斧振り回すしか能のない戦士が偉そうに」
「敵を殺すしか能がないってことなら、魔法使いも大差ないだろう?」
 さっきからジェラールの口調には強い皮肉が混じっている。わたしが初めて聞く声。
 彼は、本気で怒っていた。

 いつもと違うであろう(わたしが知らないこの半年も、たぶん彼は温和な性格だったと思う)ジェラールの反応。
 それに対し、最初は気圧されていたイヴォンヌだが、次第に不快感が高まってきたのか、不意に目を細めると言った。
「調子に乗るのもほどほどにした方がいいんじゃない? この場であなたをついでに始末しても、私たちには不都合がないのよ?」
「俺を『ついでに始末』できるほど、お前さんたちが強いとは知らなかったな」
 誇示するように、斧を構え直す。片手で振るうには少し大きすぎるが、ジェラールの右手にはいかにもしっくりと来る、使い込まれた斧。左腕には大きな盾。
 ……けれど、わたしもよく知るそれらには、魔法技術の加工は施されていない。飛来する魔法を防いだり、複数の敵を同時に無力化するような術はない。
「言ってくれるわね」
 睨み合う二人の間で緊張が高まっていく。両者の間に位置して棒立ちのユベールも、わたしたちから離れた場所に立つコゼットも、わたしも、誰も迂闊に動けないようなプレッシャー。
 と、イヴォンヌが言葉を発した。
「ユベール、あなた金と剣を巻き上げられたら困るわよね? ジェラールは借金までは引き受けてくれそうにないし」
「あ、ああ……」
 ユベールが剣先を上げるのを見て、魔女は視線を転じる。
「コゼット、その化け物蠅、あなたの目にはどう映るかしら? あの清楚で気高かったフローランスが、そんな醜い浅ましい姿になっておめおめ私たちに救いを求めるなんて、想像できる?」
「…………」
 まだまだ子供にしか見えないコゼットは、嫌々をするように首を振る。だがそのままその場にしゃがみ込んでしまった。
 続けて、イヴォンヌの言葉はジェラールへ。
「ジェラール、あなたはどうなの? そんな、ベルゼブブにどんな細工がされてるかわからない化け物蠅を庇って私たちと戦うなんて、無意味で馬鹿げたことじゃない?」
 イヴォンヌの指摘に、わたしは動揺する。
 あの高位の悪魔、蠅の王がわたしに何らかの仕掛けをしていたら? この声のようなありがたいものとは別の、いざという時に身近な誰かに危害を加えるような習性でも植え付けられていたら?
 自分の陥った泥沼の深さ。それを意識すると不安と恐怖に駆られ、身が縮むような感覚に囚われる。
 ついジェラールに視線を集中する。わたしに背中を向けたままのジェラール。
「俺には難しい理屈はわからんが」
 戦士はゆっくりと言葉を紡いだ。
「単なる疑いが、まだ何も悪事を働いたわけじゃないフローランスを殺す理由になると、助けを求めて俺たちにすがってきたフローランスをなぶり殺しにする理由になると、お前らは本気で思っているのか?」
 ……蠅の身体では涙を流せないことを痛感した。

 ユベールが顔をしかめる向こうで、イヴォンヌが呆れたように溜め息をつく。
「……とんだ偽善者ね。あなたのそういうところ、昔から嫌いだったわ」
「ならさっさと見切りをつければ良かったんだ。この地方での高収入や勲章なんて一切諦めて、都に出て名の通った超一流のパーティに入れるよう努力すれば、な」
 ジェラールの声に嘲笑が混じった。
「打算に徹することもできずに憎まれ口を叩くのは、一番醜いぞ」
 魔女の顔が、一瞬憤怒に激しく歪む。
「ユベール! フローランスを!」
 一声叫ぶとともに自らは後ろへ大きく飛び退り、呪文の詠唱を開始した。

 ユベールへの指示は、ジェラールの意識を二分するため。
 まともにやれば、ジェラールが駆け寄ってイヴォンヌを倒しておしまい。だから彼女はユベールを、羽を焼かれて飛べないわたしへと差し向けた。
 わたしを守るために戦おうとしているジェラール。そんな彼が、わたしへの危険を無視するわけがない。魔法使いはそう読んだのだろう。
 そしてそれは正しかった。
 ジェラールを避けるように大回りしながら剣を構えてわたしを狙うユベール。けどその前に屈強な戦士が立ち塞がる。
 振るわれた斧が巻き起こす一陣の旋風。
 わたしに向けて突き出されようとした剣が、断ち落とされた腕ごと地面に落ちた。
「ひ、ひいいいぃっ!!」
 うろたえて傷口を押さえるユベールを蹴り倒して気絶させると、ジェラールはわたしに向き直って軽く笑いかける。
 でも、そんな余裕があるんだろうか。
「つくづく馬鹿ね、ジェラール! 大事な蠅と一緒に黒焦げになるがいいわ!!」
 イヴォンヌの声に視線を向ける。
 複眼の捉える無数で一人の魔術師が、胸の前に構えた両手の中から今にも弾けんばかりの巨大な電光を発生させていた。わたしが見たことのない魔術。半年あれば技量が上達していてもおかしくないし、昨夜は手の内を晒してなかったということだろう。
 たぶんあれは、話に聞いた魔術師の高位呪文『雷の奔流』。長射程と高威力を誇り、わたしはもちろんジェラールでもまともに喰らったらただでは済まないはず。
 敵の視線はわたしに据えられていた。わたしを狙えば自動的にジェラールが庇うことを確信しているのだろう。
 逃げようにも空は飛べない。蠅の貧弱な肢で地面をよたよた這っても、絶好の的には変わりない。
 単に自分が攻撃されるだけならまだしも、ジェラールを巻き込むなんて最悪だ。なのに今のわたしにはそれを打開する方途が思い浮かばない。
 声をかけるのもためらわれ、無言でジェラールを見上げる。蠅なんかに顔を向けられてもいい迷惑だろうけど。
 でも、彼は優しく微笑んでくれた。
「しくじったら回復呪文頼むぜ」
 気軽にそう言うと、わたしを背後に置く形でイヴォンヌに向かって迫っていく。
 けれども間に合うわけはなく、丸太のように巨大な電光がジェラール目がけて迸った。

 ジェラールが、何かを呟きながら、手にした斧を振るった。
 もちろん、迫り来る電光をただの斧で弾き返せるわけはない。
 けど彼が眼前に描く斧の軌跡は……
「ヘキサゴン!?」
 製図したように完璧な、魔術的な守護の象徴たる六芒星が描き出されていた。
 そこに炸裂する電光。空間が透明なカーテンのように大きくたわみ、破れ、その奔流はジェラールを包んだ。
 でもその威力は大きく減じられていて、彼を死に至らしめるほどではない。射線上に位置していたわたしのもとにまでは届きもしなかった。
「あいたたた……」
 痺れと痛みが全身を包んでいるのだろう、ジェラールが呻く。しかし彼は着実な足取りで女魔術師へと歩んでいく。
「あなた……防御魔法が使えたの?!」
 奥の手を凌ぎきられたイヴォンヌが、悲鳴のように叫んだ。
「『使う』ってほど上等なもんじゃないさ。半年近く前に会った旅の賢者に教わったその通りのことを、理屈も何もわかってないままただ真似してるだけだからな」
 律儀に応じると、言い足した。
「もっとも、まだ真似すらもできてないみたいだ。完璧にやれれば俺の乏しい魔力でも、ケルベロスの炎ぐらい防げるはずなんだが……」
 ケルベロス。半年近く前。わたしと同じことに気づいたのか、イヴォンヌが笑った。
「ははっ、フローランスの仇討ちを考えて、慣れない魔法の修行までこっそりやってたってことか。でもよかったじゃないの、フローランスが生きていて。あいにく醜い蠅になっちゃったけどね!」
「元に戻すだけさ」
 捨て台詞を聞き流すと、戦士は魔術師を一撃で昏倒させた。



 強張っていた身体から力が抜けるのを感じた。
 利き腕を失ったユベールに、最強の呪文を防がれたイヴォンヌ。二人とも気を失っていてこちらに襲い掛かっては来ない。
 と、ジェラールが片膝を突いた。
「ジェラール?!」
「さ、さすがに『雷の奔流』は効いたな……。フローランス、呪文頼むわ」
 さっきまでは気力で持ちこたえていたのだろう、その場に座り込んだ彼は、もはや一歩も動けそうにない。
「え、ええ」
 六本の肢を動かして、わたしはジェラールへと近づいていった。
 地面を這うその速度が遅い。わたし自身羽を焼かれていたり、細かい傷を負っているせいだろう。でも自分より、死闘を乗りきったジェラールを治す方が優先に決まってる。
 近づくごとに彼の背中が大きくなっていく。力強い、愛しい背中。
 と、ジェラールがこちらへ振り向きそうになった。
「見ないで」
 今のわたしはあまりにも醜い、人間ですらない存在。
「今さら何言ってんだよ」
 口ではそう言いながらも、わたしの言葉に従って、まだこちらを見ないでいてくれる。
「でも……」
「惚れた女に笑いかけるくらい、したっていいだろ?」
 その飾り気のない力強い声は、わたしの中に残っていた最後の不安を拭い去ってくれた。
 ジェラールがそばにいてくれるなら、きっと大丈夫。わたしは人間に戻れるし、どんな敵が来ても……たとえそれがあのベルゼブブでも……怖くない。
「そ、そうね」
 わたしの曖昧な答えから、それでも承諾の気持ちを汲んでくれたジェラールは、ゆっくり首を回してわたしを見下ろそうとして……
 突然弾かれたように立ち上がって飛び出すと、わたしの上に覆いかぶさった。


 鈍い打撃音。
 わたしの目の前で、ジェラールの膝が力を失い崩れ落ちる。それでもわたしの上に倒れ込んだわけではない。膝と肘で彼は身体を辛うじて支えているようだ。
 何が起きたかまだよくわからないが、回復呪文を唱えれば済むこと。
「すべての傷を癒せ!!」
 わたしが使える最高の呪文をすぐさま唱えた。ほとんどあらゆる状態から回復できる、とっておきの呪文だ。
 なのに。
「傷を癒せ! 目覚めよ! 意識を取り戻せ!」
 頭上からは、コゼットの悲鳴のような呪文詠唱。負傷回復、覚醒、混乱からの復帰の三種の呪文を立て続けに唱え、どうやら対象はジェラールらしい。
 それなのに。
 ジェラールは、身じろぎ一つしようとしない。
 夏の盛りだというのに、全身を寒気が走った。頭部から肢の先まで、身体中の毛が逆立つような不安に囚われた。
 肢を動かし、ジェラールの下から這い出す。
「傷を癒せ! 目覚めよ!」
 わたしたちが、正確にはジェラールが、ユベールやイヴォンヌと戦い始める前、コゼットはすべてを拒絶するようにしゃがみ込んで呆然としていた。そんな彼女が先刻、わたしとほぼ同時に回復呪文を唱えられたのはどうしてだろう。
 ジェラールのさっきの動きは、たぶんわたしを庇おうとしたものだ。なら、彼は何からわたしを庇ったのだろう。
 その何かに対して、コゼットはなぜ悲鳴も警告も発しなかったのだろう。たとえ最初に襲われようとしていたわたしを救う気がなかったのだとしても、もしジェラールがその何かに気づけば必ずわたしを守ろうとすることは、さっきの戦いからはっきりしていたはずなのに。
 もし人間だったら、全身から汗が噴き出していたはずだけど、蠅になっているわたしは汗をかかない。
 わたしは頭を巡らせてジェラールを見た。

 クリティカルヒットと俗に呼ばれる攻撃がある。技の名前などではない。単なる結果を示す言葉。
 狙ってできるものではない、偶然とか、攻撃側の幸運とか、防御側の不運とか、そんな表現でしか説明しようのない結果に対する呼称。
 ……例えば、駆け出しで筋力に乏しい僧侶の少女が、練達の戦士の脳天を一撃で打ち砕いてしまった場合など、そうとでも呼ぶ他はないだろう。
 コゼットの脇に放り出されているモーニングスター。そこにこびりついている脳漿。
 わたしをかばうように四肢を伸ばしたまま、事切れているジェラール。
 唱え続ける呪文の効果がないことを悟ったか、コゼットが呆然とした表情で膝をついた。
 ぼんやりと周囲をさまよう視線が、わたしに止まる。
 と、その顔が怒りに染まった。
「この、化け物ッッッ!!」
 半年前までわたしに懐いていた幼い少女は、わたしにすべての憤怒と憎悪を叩きつけるように叫んだ。その表情は、半年前まで、いや、つい先刻までと比べて、ひどく艶かしく女らしいものにも見えた。
 その表情で、彼女の心理を少し理解できた気がした。
「あんたが急に現れたりしなければ、みんな今まで通りにやっていけたのに! あんたが今さら出てこなければジェラールさんがイヴォンヌさんやユベールさんと殺し合うこともなかったのに! あんたがせめて虫なんかになってなければ諦められたのに! あんたが化け物じゃなければ祝福することだってできたかもしれないのに! 醜い蠅のあんたがいなければ」
「あなたが、恋してるジェラールを誤って殺してしまうこともなかった」
 先回りすると、完全に図星だったのか、コゼットの言葉が止まった。
 沸騰する彼女の頭に水を差せたかと、一瞬だけ期待した。
 彼女がわたしをどう思ってるかはとりあえずどうでもいい。彼女がわたしを殺そうとしたことも、ひとまずどうでもいい。
 ジェラールを蘇生させるためには、他の二人の手が借りられない以上、コゼットの協力を取りつけなければならないのだ。教会へ運び、防腐処置を施し……蘇生費用の工面は後で考える。
 しかし、コゼットはわたしの望みを裏切った。
「わかってるのなら、死んでよっ!!!!!」
 素早くモーニングスターを掴むと、わたしの身体に打ち付ける。蠅の身体のわたしは大きく吹き飛ばされ、立ち木に激突した。
 やはりレベルが低いから、わたしを死に至らしめるほど強い打撃ではない。けれど心と体力が参っているこの状況では、何発も喰らっていいものでもない。
 だからわたしは、無駄かもと思いつつ声を上げた。
「ジェラールを蘇生させなくちゃいけないわ。一人で死体を抱えて山を降りる気なの?」
 わたしは彼を運ぶ役には立てないが、コゼットの疲労回復はできる。もしモンスターや意識を取り戻した二人に襲われた場合、呪文での攻撃は彼女より優れているし、盾役にもなれるだろう。
 しかし、やっぱり無駄だった。
「ジェラールさんを生き返らせるなんて無理に決まってるじゃない! わたしにはそんなお金ないもの!」
 ある意味、現実的な答え、とは言えるだろう。
 だがその瞬間、わたしは深く激しい怒りの感情に包まれた。ユベールやイヴォンヌに嘲られ殺されそうになった時よりも、はるかに深く。
 あなたのジェラールに対する気持ちは、金銭的な問題で覆るようなものだったのか、と。
 こうしてわたしを殺そうとしているというのも、ただの腹いせではないだろう。後でイヴォンヌとユベールを治して三人で街へ帰る算段と考えられる。
 結局のところ、彼女の熱はジェラールを死なせてしまったその時点から、急降下するように冷めてしまったのかもしれない。憎いわたしを自力で殺そうとするくらいにはまだ熱く、しかし恋する相手を甦らせる気力は萎えるほどに。
 でも、わたしはそんな相手にみすみす殺されたくはない。こんなみっともない娘に殺されるなんて冗談じゃない。
 何よりわたしは、ジェラールを生き返らせたい。わたしを守り抜いて命を落とした、愛しい人を。
「傷を癒せ!」
 呪文でどうにか体力と羽を回復させる。このまま飛んで街の近くへ行き、姿を見せずに物陰から助けを呼ぶ。成功率がどれほどのものかは定かでないが、今のわたしにできる最善の手段のはず。
 けれど。
「逃げるなよ」
 いつもの落ち着いた口調とは違う、恨みのこもったユベールの声。
 真後ろから不意を突かれたわたしは、羽と胴体ごと地面に縫い止められた。



「こっちについてくれたのね、コゼット。賢明な判断よ」
 気絶から覚めたイヴォンヌが、回復呪文を唱えてくれているコゼットに言った。
「…………」
 返事をしないコゼットだが、その行動がすべてを雄弁に語っている。
 わたしは依然、胴体にサーベルを突き立てられたままである。
「三本目、っと」
 切断された右腕をいち早くコゼットの呪文で回復してもらったユベールが、まだ神経質そうに一度断ち切られた部分をさすりながら、わたしの左前肢に手をかける。そして今度は、最初に二枚の羽をもいだ時のように、勢いよく引きちぎった。
 痛いことは痛い。しかしそれは、人間の時なら髪の毛を十本ほど引き抜かれる程度の痛み。子供の頃に近所の男の子たちが捕まえて振り回していた昆虫も、簡単に肢がもげてるのに痛がったりはしなかったように覚えている。
 痛覚が鈍いのは、蠅の身体で唯一ありがたいことだ。わたしは空虚になりがちな心の片隅で、そんなことをぼんやり考えた。
 ケルベロスに大怪我を負わされ死に掛けていた時のことを思い出す。ジェラールたちが逃げ、ベルゼブブが現れるまでの、絶望と両脚の激痛以外に何も感じられなかった時間。あの時に比べれば、まだしもと言うべきだろう。
 わたしが悲鳴を上げるのを期待しながら肢を一本一本もぎ取っているユベールは、わたしが大きな反応を示さない様子を見て、つまらなそうに言った。
「本当に虫になっちまったんだな。やっぱりおまえは化け物だよ」
 そうかもしれない。今のわたしは人間だった時とは大きくかけ離れた存在だ。
 でも、わたしには、彼ら三人の方がよほど化け物に思えてならなかった。
 金を失いたくないから。金を得たいから。恋する相手を奪われたくないから。そうした理由でかつての仲間や先輩に当たる人間を簡単に殺そうとする人間たち。わたしがかつて見たことのなかった醜さをさらけ出した人間たち。
 それともこれが普通なのだろうか。人間の姿を失ったものは、人間として扱うに値しないものなのだろうか。
 いや、ジェラールはわたしをわたしとして扱ってくれた。わたしをフローランス・ベルとして見てくれて、守ってくれて、戦ってくれた。
 でも、そのジェラールはもういない。
「こっちの方がまだ効果的かね」
 ユベールはそう言うと、ジェラールの死体をわたしの真正面に引きずってきた。
「ああ、痛かったなあ、さっきの一撃はよ」
 わたしに聞かせるように大声でぼやくと、ジェラールが愛用していた斧を振り上げた。
「やめて!」
 わたしの声を無視して振り下ろされる斧。断ち切られる左腕。
「おっと、間違えちまった」
「いや! そんなことしないで! ジェラールにそれ以上ひどいことしないで!!!!」
 今度は右腕。さらにその次は、死体を嬲るように、小刻みに切り刻まれていく右足。
 自分が殺されることは、まだ耐えられる気がしていた。ジェラールがいなくなった以上、こんな世界に未練なんてない。
 でも彼の死体を辱められるのは我慢ならなかった。
 果てしない喪失感と、肉体的精神的苦痛。しかもそれを加えてくるのは、かつて大切な人たちと信じていた人間たち。
 ケルベロスに殺されかけた時よりも、よほど惨い。
 叫びながら、せめてジェラールへの無法を止めてくれることを期待してコゼットに目をやる。なのに彼女は、目を瞑り耳を塞いでいた。まるでそうすれば、周りのすべての出来事から無縁でいられるとでも言うように。
「こんなの嫌、殺して、わたしを殺して……」
 叫ぶのに疲れ果て、呻くように繰り返すことしかできなくなる。
 と、刺さっていたサーベルが引き抜かれた。
「前にあんなこと言ってたあなたがそこまで言うとはね」
 頭上から聞こえるイヴォンヌの声。オークかコボルドに新種の呪文の威力を試してみる時の声に、よく似ている。
「なら私もそろそろ飽きてきたし、お望み通り殺してやってもいいわよ。ジェラールと一緒にね」
 そう言うと、ゆっくりと呪文を詠唱し始める。彼女の掌の上、炎球が次第に大きく膨らんでいく。
「今からジェラールごと火葬にしてあげるわ。ほら、まだ歩くくらいできるでしょ。愛しの彼の元に駆け寄っていきなさいよ」
 挑発するように言われ、わたしは身を竦ませた。


 心は前へ進めと命じている。ジェラールとともに死ねるなら本望だと思っている。
 頭もそれを否定しない。逃げようにも、回復呪文を唱えなければ飛ぶことはできない。そんな猶予を彼らは決して与えない。それなら愛した人の傍で死ぬのがせめてもの慰めになるのではないかと考える。額の紋章の件があるからわたしを焼き尽くしてしまうわけがないとも考えられるが、それならなおさらジェラールの盾になるべきだろうとも。
 なのに。
 身体は硬く強張り、動こうとしない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 ぴくりとも前へ進み出せないわたしを見下ろして、イヴォンヌが嘲るように言った。
「前に散々きこしめした時、言ってたわよね。『死にたくない』って。冒険者のくせに臆病なこと」
 ユベールとコゼットにも聞かせるつもりなのだろう。あるいはそれは、わたしの醜さを顕わにすることで、自分たちの罪悪感を減らそうという計算もあったのかもしれない。
「まあ、しかたないわよ。死を恐れるのは生物の本能、まして悪魔の下等なしもべに成り下がった今のあなたじゃ、人間だった時以上に本能の虜になっていることでしょうしね」
 心に突き刺さる嘲弄の矢。けれどそれは、たぶん事実。
 わたしは醜い。わたしは浅ましい。わたしはいぎたない。わたしは穢れている。
 こんな醜いわたしは……しょせん、ジェラールのそばにいる資格がない。
 そんなくだらない合理化で今の自分を正当化し、わたしは全身の力を抜いた。
 死にもの狂いでやれば、ここからでも誰か一人くらいは道連れにできるかもしれない。でも無意味だ。
 死ぬのはやっぱり嫌だからとことん逃げる。ただそれだけを考えることにしよう。
 心の中で荒れ狂っていた感情が静まり、凪のような平静な気分が訪れた。
 あるいはこれは、東方の宗教で言う「悟り」のようなものなのだろうか。
「さてと、ユベール、いいかげんに終わらせましょ」
「了解」
 イヴォンヌが離れ、今度はユベールがこちらへ迫る。やはりまだわたしの首には利用価値があると考えているのだろう。
 まずは彼の初太刀をかわす。うまくいったら呪文で回復。その後はイヴォンヌの出方次第で対応を即座に変えて……。
 そんな風に思考を巡らせていると。
「今の君の心理状態は、私にとっては面白くないね。『収穫』はここまでとしようか」
 聞き覚えのある声がどこからともなく響き、次の瞬間にはわたしを庇うように人影が立っていた。



 古めかしくも上品で豪奢な装束。一分の隙もない身のこなし。今わたしには見えないが、その顔立ちはやはり気品あるものなのだろう。
 わたしの姿を変えた元凶。わたしの命を救った悪魔。
 地上に出たわたしに賭けを持ちかけた、ベルゼブブ。
「賭けは君の負けだ」
 わたしへの宣告。しかしそれは、受け止める他ない事実。
「な、何者だ、貴様!?」
 ユベールが声を張り上げながら、ベルゼブブに斬りかかった。今回の一件は、彼からすっかり冷静沈着な印象を拭い去ってしまった。普段のあれはよくできた演技に過ぎなかったのだろうか。
 くだらないことを考えてしまうのは、この後の成り行きが予想できてしまうから。
 ベルゼブブが、近づきつつあるユベールに対し、蠅を払うように手を横に一振りした。
 それだけで、腕の立つ洒落者の剣士は人形のように吹っ飛ぶと、立ち木に全身をめり込ませた。お気に入りのサーベルは、酸を浴びたようにボロボロになっていた。
「ユ、ユベール!」
 イヴォンヌが声をかけるが、ユベールは木に貼りついたまま。あの勢いでは全身の骨が砕けていそうだ。ベルゼブブが戦う姿は初めて見たが、肉弾戦もこなせるらしい。
「…………」
「くっ!!」
 ベルゼブブは無言でイヴォンヌとコゼットを見つめている。モーニングスターを構えはしたが、コゼットはもう問題外。一方のイヴォンヌは、沈黙に耐えきれず呪文を唱え出した。『雷の奔流』だ。
「無駄なのに」
 思わず、ぽつりと漏らす。
 わたしたちは、すでに詰んでいる。もはやこの場にいる誰も、この悪魔の意向からは逃れられない。
「喰らいなさい!!!」
 イヴォンヌが呪文の詠唱を完了させ、じっと待ち構えていたベルゼブブに放つ。
 再び手先での軽い、今度は縦の一振り。
 強烈な雷光の束は、蝋燭の火よりも簡単に消し去られ、イヴォンヌの全身は巨大な手で押さえつけられたように大地に潰れた。
 その様を見たコゼットは、腰を抜かしてへたり込んでいる。
 さっきまでわたしの命を脅かしていた人間たちは、あっという間に無力化された。



 イヴォンヌとユベール、コゼットの三人は魔力で拘束されていた。気を失った二人も意識を取り戻しはしたが、何を企む気力もないのか呆然とベルゼブブを眺めている。
「惜しいところまで行ったが、負けは負けだ。君は今後、私の元で暮らしてもらい、できれば協力もしてもらいたい。ああ、別に主従関係というわけではないよ。君は私の同族だからね。保護はするが、君個人の判断はなるべく尊重しよう」
 ベルゼブブはわたしの前に膝をつき、手ずから呪文でわたしの傷を癒し、近い目線から語りかけてきた。
「同族?」
「君は自分がただの巨大な蠅だとでも思っていたのかい? 君のその身体は魔族だよ。修練を積み魔力を伸ばせば、私のように人の姿を取ることもできる」
 新しい事実を教えられたが、別にうれしくはない。今日経験した人間不信はかなり根深いものらしい。
「あの三人は、どうするのですか?」
 後肢を擦り合わせながら、わたしはベルゼブブに訊ねた。無礼かもしれないが、マナーに反していたら指摘してくれるだろう。
「君の妹や弟にしようかとも考えていたが……特に剣士と魔術師は、感情の動き方が獣めいていてね。あれは傍においていてもつまらない。だからこうすることにした」
 わたしの肢の動きは咎めずにベルゼブブはそう答えると、二人に視線を向けた。
「君たちは面白いことを言っていたね。公共の福祉のためにはフローランスが死ぬのは当然だとか、冒険者のくせに死ぬのが怖い臆病者とか」
「じ、事実だろう」
「そこで君たちには、公共の福祉や秩序のために尊い自己犠牲の精神を発揮する機会を与えよう」
 言いながら、ベルゼブブの手には黒く小さな光球が生じていた。それらが二人の身体に吸い込まれる。
「ガッ?! ウ、ガァァァァァ!!!」
「ヒィッ?! アウ、アウバウ、ワブ……ブビィッ?!!」
 二人の衣服が塵となり、身体も変化していく。
 ユベールは犬めいた低級な獣人……コボルドに。
 そしてイヴォンヌは豚めいた下等な獣人……オークに。
「まあ落ち着いて、黙りたまえ」
 ベルゼブブがそう言って指を鳴らすと、とたんに二匹の獣人は騒ぐのを止めた。いや、声を発しようとしているのだが、出せないようだ。
「呪いによって少々姿を変えさせてもらったが、人間としての意識は保っているかね? よろしい。そんな君たちには人間に戻れるチャンスがある。何、人間だった時の体力も剣技も魔術も持ち合わせている勇敢な君たちには、簡単なことさ」
 絶望と恐怖から期待へと眼の色を変え懇願するように仰ぎ見る二匹に、悪魔は告げる。
「先ほど君たちがフローランスに要求したように、人間に無抵抗で殺される。それだけで呪いは完全に解除される」
 二匹の顔色が劇的に変化した。
「では今から特別に君たちの住む街の近くの森の中へ送ってあげよう。ああ、一つ忠告しておくが、人間としての意識は時間が経つほどに薄れていき、一年ほどで完全な獣人のそれになってしまう。そうなってしまえば殺されても元には戻れない。それまでに人間らしい勇気を示すことを祈っているよ」
 そう言ったベルゼブブは、すがるように手を伸ばす二匹の姿を無視して、軽く二言三言呟いた。それだけで二匹は人間大の球形に包まれると、街の方向へ飛んで行った。
 ただのコボルドとオークなら一撃で死ぬこともできるだろうに。なまじ強い冒険者である彼女らが、ひたすら攻撃を受け続けるなど、よほど強固な意志がなければできない相談だ。
 もちろん、それらを百も承知で悪魔は呪いを設定したのだろうが。
「さて、こちらの小娘だが……君への贈り物としよう。好きなように加工して使い魔と
すればいい」
 ベルゼブブはそう言うと、今度はもう少し長く呪文めいた言葉を唱えた。
「使い魔、ですか」
 へたりこんだ股間から湯気を立ち昇らせるコゼットを、わたしは見つめた。半年前まで神に仕える僧侶として仲の良い先輩後輩だったわたしたちが、今では蠅の姿の魔族とその使い魔になるとは。
 コゼットが口を開きそうになる。その表情を見れば、何を叫ぶ気かだいたいわかる。
 絶望と恐怖と混乱の悲鳴、あるいはせいぜいわたしに救いを求める嘆願といったところ。
 どちらも煩わしくて、わたしは何も聞きたくないと感じた。
 するとコゼットは、先ほどの二人同様、口を開いても声を出せなくなる。
「……もしかして、わたしがこの子を弄れるわけですか?」
「その通り。やはり君は賢いね。君と彼女をつなげたので、能力と姿形を君の望むように変えることができる。君自身の魔族としての能力に制限されるから、極端に強くしたりはできないけれどね」
「別に、強くしたりするつもりはないです」
 憎み、弄ぶ対象を与えられてしまった。新米の仲間に対する悪魔なりの歓待の手法ということか。
 まあ、拒む理由もない。
「わたしの居室の隣、あの底に送っておいてもらえないでしょうか? 手を加えるのは、帰ってからにします」
「わけもない」
 ベルゼブブが優雅な仕草でコゼットを指差すと、彼女の姿はかき消すように失せた。
 たぶんこの瞬間には糞尿の悪臭で気絶していることだろう。


 余分な登場人物は次々と退場していく。残るはベルゼブブとわたしと、彼の亡骸。
 傾き始めた太陽が、わたしたちを照らしている。
「最後は彼だが……君はどうしたい?」
 ベルゼブブは再び膝をつくと、わたしを見つめた。もうここで埋葬するくらいしかないと思っていたわたしは一瞬呆気に取られたが、言わんとしていることをすぐに察した。
「わたしは……」
 言いよどむわたしに、悪魔は口を開く。
「私は彼に君と同じ立場を与えたいと思っている。私の能力をもってすれば、今なら十二分に間に合う」
 わたしの予想通り、ジェラールを生き返らせることができると、悪魔は言っている。
 けれどそれは、ジェラールをわたしと同じ目に遭わせるということ。わたしと同じ、醜い蠅の身体をあてがうということ。
 それぐらいなら、ジェラールは死を選ぶことだろう。ならばここで弔うのがよっぽど彼の意に沿ったことになるのではないか。
 でも彼がわたしと同じ身体で生き返れば、わたしたちは一緒にいられるだろう。いつか冒険者に滅ぼされるまで、たぶん普通の人間よりはよっぽど長い時間を、同じ立場で、一緒に。
「………………………………わたしは、」
 陽が沈みそうになるまで考え、悩み、わたしは希望を口にした。





「あの選択肢は一番可能性が低いと思っていたがね」
 洞窟の底の居城の奥のあの部屋に戻ったわたしに、ベルゼブブは語りかけた。
「予想はしていたんですね」
「似たような状況で、稀にその選択をする者がいるのでね。簡単に堕してしまわない、優れて気高い心の持ち主がそういう決断をしがちだ」
「それは買いかぶりだと思います」
 蠅の習性が強まっているのか、わたしは部屋のあちこちを飛び回ってしまう。壁や天井に止まり、せっせと肢を擦る。
 そんなわたしを見つめる悪魔の視線は優しい。わたしが蛆になっていたあの時と似た、小さい子の歩みを見守るような表情。
「君はもちろん覚悟の上だろうが……彼が生き返れない可能性もあるだろうね」
 ジェラールをここへ連れて来ない。あの場所に埋葬もしてしまわない。その代わり、わたしは悪魔に頼んで彼の遺骸を街のすぐ近くに運んでもらった。蘇生費用をまかなっておつりが来るほどの宝石と、ジェラールに宛てた一通の手紙とともに。
「どちらでも、構いません。ジェラールが生き返ってくれればもちろん一番いいですが、あの宝を街の人間が着服してジェラールを見捨てたなら、わたしは人間に対してより深い嫌悪感を抱くことができますから」
 そうなれば今以上に、人ならぬ身となった現状を肯定することもできるだろう。
「生き返った彼は、私を追ってくるかもしれないね。囚われの姫君を救わんとする勇敢なナイトとして」
「彼にそれほどの力はありません」
「そうとも限らないさ。魔術の心得のない者が普通、六芒星の盾を半年で使えるものじゃない。彼が研鑽を怠らず幸運にも恵まれれば、いずれ私を脅かすかもしれない」
「……仮にそうなった場合、わたしはあなたとともに逃げます」
 わたしはこの悪魔に頼みごとをした。ジェラールが生き返れるよう手を打ってもらった。その借りを返さなければならない。
 それにわたしは、ジェラールに顔を合わせる資格もない。あの時、自分の死に恐怖して彼の傍に近寄れなかったわたしには。
「ふむ。私にとっては最良の回答だね。君にとって最善の選択かは不明だが」
 露骨に皮肉を匂わせた口調で言うと、ベルゼブブは天井のわたしを見上げる。
「もうじき夕食だが、人の姿を取るつもりはないのだね?」
「はい」
 わたしはもはや人ではない。だから人のふりをするつもりもない。
「ならばメニューは以前と同じだ。厨房に伝えてくるとしよう」
 踵を返そうとした悪魔は、ドアの近くで振り返った。
「ああ、君の食料庫にはまだあの娘がいるよ。逃げ出す気遣いはなかろうが、トロールやオーガにいちいち殺すなと指示を出すのも面倒なのでね、近いうちに処理を済ませてもらえると助かる」
「なら、今すぐ行きます」
 わたしは悪魔に使い魔を「弄る」能力の詳細を聞き出すと、部屋を出た。
 些細だが、初めての仕事。魔族としてのわたしの、初めての仕事。

「開け」
 屋敷の中は蠅の姿でい続けるわたしに合わせてすぐさま改造され、わたしの声に応じてドアが開くようになっている。
 その途端に嗅覚を刺激する臭い。今のわたしにとっては食欲をそそる心地好い臭気。だがもちろん人間にとってはそうではない。
 わたしの部屋の隣を含め、屋敷のあちこちにある便所。その底で糞尿を受け止める巨大な貯蔵庫。床や壁に降り立って肢を汚さぬよう気をつけながら、わたしは宙を飛んで奥へ進む。
 床一面を埋め尽くす糞尿の中、それでも比較的堆積が少なく、また上から降り注ぐことのない場所を選んで、コゼットは座り込んでいた。
 ドアの開く音に反応して、汚物と涙と吐瀉物で汚れきった顔をこちらへ向ける。声を上げようとしないのは、わたしがさっき地上で思った「声を発するな」という指示が効果を失っていないため。
 わたしを見つめる眼差しは相変わらず恐怖に満ちている。両腕で身体を抱く姿は、安い悲劇のヒロインめいていた。
 自分は何も悪くないとでも言いたげに。
 時間を置いて少しは冷静になれたかと思ったが、そんな姿を見ているとやはりわたしは怒りをこみ上げさせずにはいられない。ひどく残酷な衝動がわたしを支配する。
「あなたのおかげでジェラールは死に、わたしはここに逆戻りよ。人間に戻るどころか、ずっと化け物蠅のまま」
 わたしが言うと、身を縮める。しかしそこには、ジェラールを死なせたことへの悔恨は見えず、微妙に喜悦の色も混じっていたような。しくじったわたしをざまあみろとでも思っているのだろう。
 あるいはその観察は、コゼットを断罪したがっているわたしの目が歪んでいるためか。
 わからない以上、感情に身を任せるのが一番な気がした。
「まあ、あなたにもずっと付き合ってもらうわ。わたしと同じ姿で」
 ぽかんとした表情が嫌悪と恐怖に歪むより早く、わたしは思い描いていた中でも最悪のイメージを彼女に照射した。
 瞬時に形を失い、はらりと床に広がる僧衣。
 同時に巻き起こる無数の羽音。こちらの想定に従って、わたしの餌を採取するトロールの邪魔にはならないよう、奥まったエリアへ移動していく。
「最初はただの蠅。でも魔物の糞を食べているうちに次第に魔力を蓄えるようになるわ。百年も経てばいっぱしの魔族になれるかもね」
 間違いなく混乱しているであろうコゼット「たち」に向けて、わたしは言葉を続ける。
「でも普通の蠅の寿命なんて短すぎるでしょ? だからちょっと操作させてもらったの。今あなたの周りを飛んでいる蠅は、すべてあなた。そしてあなたが産む卵もそこから孵る蛆も、すべてあなた。個々の経験は全体の知識となり、全部のあなたが死に絶えない限りいつまでもコゼットの意識は保ち続けられるという仕組み。ある意味、あなたはわたし以上に不死に近い存在になれたんじゃないかしら?」
 相変わらずうろたえている何万何十万の蠅の群れ。でも何千匹かはすでに床に降り立ち、早くも糞をむさぼっている。虫の本能にあっさり支配されているわけだ。
 そして何十匹かはすでに……。
「雄と雌の比率は半々。自分同士でまぐわうってどんな気分なのかしら。いずれその暮らしに慣れたら、教えてちょうだいね」
 そこまで言うと、わたしはコゼットの群れを後にして貯蔵庫を出た。
 今の自分はどこからどう見ても完全な魔族だなと自嘲しながら。





 この屋敷に篭もってから一年が過ぎた。
 わたしは日夜、図書館の本を人間の言葉に翻訳している。
 それらは製本されて図書館の新たな一員となるのだが、その際に一部あるいは大部分が欠損した状態で書き写され、人間の世界へと流出されるという。それら不完全な魔道書を弄ぶ智者気取りはしばしば人の世に混乱を巻き起こすのだと、悪魔が楽しげに語らったことがある。
 わたしは少し心得違いをしていたのだが、魔族は人間のみならず生物全般の感情を喰らうことができる。しかし動物や植物のそれは単調すぎて滋養に乏しく、魔族は絶対数が少なすぎるし齢を重ねた彼らは感情の動きが平らかになっていく。だから無闇に繁殖しつつそれなりにこみいった上に激しい感情を抱く人間たちの混乱こそは、悪魔たちの最高の糧となるのだ。
 もっとも、わたしはいまだに生物の感情なるものを食したことはないが。
(お食事でございますお食事でございますああおいしそうな糞あたしも食べたい憎いいえいえそんな失敬なことはいたしませんお食事でございます食べたい食べたい恨めしい犯したい犯されたいお食事でございます死にかけてる苦しい気持ちいいおいしい痛い)
 コゼットのうちの数匹が飛んできてわたしに告げる。そうしている間にもよその場所で食い交わり殺されいまだにわたしを憎んでいる別の彼女らの思念が混ざりこむ。なかなか煩わしいが、一年も経つとずいぶん慣れた。
 わたしは蠅の肢に合うように作られたペンを机に置くと、食堂へ飛んでいった。

「フローランス」
 いつものように口吻を突き立てて糞と腐肉の盛り合わせを喰らうわたしに、ベルゼブブが話しかけてきた。
「わたしをその名前で呼ばないでください」
 かつての『わたし』の名残を唯一残す、声を発する。本当はこれも消し去りたいくらいだが、さすがにそれでは不便すぎるのでやむをえない。
「君もなかなか強情だね。魔力はすでに高まっているのに、君は一向に人間の姿に戻ろうとしない」
「わたしは人間ではありませんから」
 九ヶ月ほど前から何度となく繰り返されてきた問答を、いつもの言葉で締めくくる。
 ベルゼブブはしばし黙ってワインを味わうと、声の調子を変えた。
「アスタロトに聞いた話だが、エルスバーグの一行に斧を得物とする凄腕の戦士が加わったらしい」
 餌をむさぼっていた身体が思わず固まった。それに気づいているだろうに無視して、知り合いの悪魔から得た情報をベルゼブブは語り続ける。
「今は南方の邪神たちと戦っているそうだが、いずれここへも来るだろうね。何せ彼はここにいるものの正体を知っている。今は力も身につけた。来ない理由がない」
「……申し訳ございません」
 彼を生き返らせる余地を残したわたしの責任だ。後悔はしていないがベルゼブブに不利益をもたらしたのは間違いないのでわたしは謝罪した。
「いや、謝る必要などはないよ」
 ただし問題が一つある、と続けた。
「侵略者に背中を見せるのは不愉快だが、ここには貴重な文物が多い。君の手になる翻訳書などは、激しい戦闘の混乱で失われていいようなものじゃない。ゆえに私は、彼らがここへ攻め込みそうになったら撤退の準備を開始する。蠅の情報網を駆使すれば、彼らを出し抜くことは可能だろう」
「……はい」
 話の行方が見えず、わたしは不得要領な相槌を打つ。
「すべてを一人で仕切るのは私と言えども手に余るのでね。半年後か一年後かはわからないが、その際のしんがりは君に任せたいと思っている」
「ああ……。かしこまりました」
 わたしに今の身体を授けた悪魔の考えていることを理解し、わたしはジェラールが生きていたことにまだ動揺しつつも、ひとまず肯った。
 そんなわたしに、悪魔は唇を歪めて笑いかける。
「この一年間で一番大きく君の心が揺らいだね。一日中熱心に翻訳に取り組んでいる君を見ていると、ここが修道院にでもなったのかとしばしば錯覚させられたものだったが」
 そして、わたしの予想とまったく同じことを付け加えようとする。
「前にも言ったが、私は同族である君に命じない。殿軍の意味をどのように受け取ってもらっても構わない。むしろ」
「どんな行動を取るか悩みに悩んでもらいたいくらいだ、でしょうか?」
 わたしを救うためにやって来たジェラールと戦うのか、徹底的に彼から姿を隠し続けるように振る舞うのか、過去一年間の所業を泣いて詫びてエルスバーグの勇者たちに慈悲を乞うのか、事前にジェラールと連絡でも取り示し合わせて二人でどこかへ逃げるのか。
 今この瞬間だけでも選択肢は次々と思いつく。わたしのこれからの日々は、悪魔好みな起伏の激しい感情に左右されるものとなるだろう。
「ご名答」
 ベルゼブブは、悪魔の名に恥じぬ邪悪な笑みを浮かべてみせた。


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8件のコメント

[C1] ブログ開設お疲れ様です

実は本ブログ掲載の改訂版の方をじっくり読めていませんが
ブログ開設と聞いて早速駆けつけました。
よろしければ自サイトのリンク集に加えさせて下さってもよろしいでしょうか?

[C3] いらっしゃいませ

maledictさん、早速のコメントありがとうございます。
リンクのご提案もしてくださってありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします。ご迷惑でなければこちらからもさせていただこうかと思いますが、いかがでしょう?(追記:そもそもリンクフリーでしたね。伺うまでもない質問をすみません)

改訂といいましても、全体でもせいぜい数行書き加えただけですので……。新しいものも早くお見せできるようがんばりますね。

[C8] 遅れました、すみません

相互リンクの件のお返事、読み落としていました。
早速加えさせて頂きます!

[C12]

趣味じゃないのにじっくり読まされたwwwGJwww

[C13] ご感想ありがとうございます

hさん、はじめまして。
多くの人を拒絶して読む人を限定するような題材なのに、お読みくださって本当にありがとうございます。頻繁な更新とは行きませんが、よかったらまたお越しください。

[C23] 初めまして。

初めまして、壱と申します。
以前からちょこちょこお邪魔させて頂いてましたが、勇気を出してコメをば…´ω`;

大変楽しく読ませて頂きました!
決して趣味のジャンルではないのに、最後までちっとも飽きずに読まされました。
脱出に成功したと思ったら…のとことか、私までショック受けちゃいました(笑
TFのツボを突きつつもシチュ優先ばかりでなく、1つの小説として完成されていて本当に唸らされました…。
あと、実は私♀なのですが…ベルゼブブに惚れましたv(笑

他の作品にも、また是非感想書かせて下さい!
恐ろしく読みにくい文で恐縮ですが;

ではでは、失礼します!

[C24] ご感想ありがとうございます

壱さん、初めまして。

>以前からちょこちょこお邪魔させて頂いてましたが、勇気を出してコメをば…´ω`;

ありがとうございます。そういう方にコメントしていただけると、また格別のうれしさです。

>大変楽しく読ませて頂きました!
>決して趣味のジャンルではないのに、最後までちっとも飽きずに読まされました。
>脱出に成功したと思ったら…のとことか、私までショック受けちゃいました(笑
>TFのツボを突きつつもシチュ優先ばかりでなく、1つの小説として完成されていて本当に唸らされました…。

ありがとうございます。
元々マイナーなTF物語にさらにいくつかの要素が加味されて、これらすべてを最初から抵抗なく受け入れ楽しんでくれる方はさすがに少ないだろうと予測しておりました。
だからいつも以上に……というわけではありませんが、キャラクターの気持ちの動きとか文章とか、趣味・嗜好に大きく左右されない普遍的なところでなるべく失点しないよう気をつけて書きました。
最初はあてどもなく掲示板に書き連ねたものなので、気分の赴くままに書いたものではありますが、フローランスが羞恥や苦悩をあれこれ感じ続けるような展開を考えるうちに、ストーリーも決まっていった感じです。

>あと、実は私♀なのですが…ベルゼブブに惚れましたv(笑

そう言っていただけると作者冥利に尽きます。人間とは何か違う、けど単なる悪として片づけられないような存在を目指して、描写してみました。

>他の作品にも、また是非感想書かせて下さい!
>恐ろしく読みにくい文で恐縮ですが;

読みにくいなんてことはまったくありませんよ。
他にも好みに合うものがありましたら、どうぞお気軽にご感想をお聞かせください。
今現在、少し長めの話に取り組んでいて、ブログ更新はいくらか先になってしまうのが心苦しいですが、今後ともよろしくお願いいたします。

[C53]

素晴らしい作品でした

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プロフィール

茶

Author:茶
小説『おれがあいつであいつがおれで』で入れ替わりに、漫画『ヒロインくん』でTSに、アニメ『まんが日本昔ばなし』のあるエピソードで女性の変身にはまりました。

ご連絡はirekae☆writer.interq.or.jpまでお願いいたします(☆を@に変えてください)。

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